GRAILS/Redlight

★★★★

 USはオレゴン州の5人組ポストロックバンド、Grailsの2ndアルバム。MogwaiやEITSのようにメロディーの旋律や曲の展開そのものでダイレクトにこちらの琴線を刺激するのではなく、そのサウンドからリスナーにある一つの心象風景を抱かせ、その音世界へと引きこんでいく、少し珍しいタイプのバンド。

 Tr.1の"Dargai"では、歓喜の雄叫びのように猛々しく打ち鳴らされるドラミングと、これまた祝祭の鐘のように響き渡るギターのアンサンブルが、押しては引く波のように打ち寄せるダイナミックなナンバー。が、こういった派手さはむしろ作品中では異質で、以降は濃い霧のように立ち込めるバイオリンやピアノのストリングスと、その合間から漏れ出すように徐々に表情を変えながら展開していく重厚なドラムスとギター、ベースが織り成すドローンサウンドが展開されていく。Tr.6"Redlight"やTr.8"Fevers"、Tr.10"Word Made Flesh"などで見られる、終盤にかけて徐々に厚みを増していく生々しいドラミングと、ハッとさせられるほどに美しい旋律を弾き出す金属的な響きのギターフレーズも素晴らしい。

 夜、眠りに落ちる寸前の半覚醒状態のような、心地良くも気だるい、どこか現実離れした雰囲気を醸し出している作品。中毒性高し。

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The Burden Of Hope

★★★★☆

 03年リリースの1st。USバンドであるという事実が俄かには信じがたいような、東欧的な空気を纏った彼ら特有の雰囲気をより鮮やかに感じ取ることが出来る、素晴らしい作品。

 多くの楽曲で主旋律を彩るのは、Timothy Hornerなる人物の操るバイオリンの調べである。春の木漏れ日を想起させる柔らかなギターフレーズや、広大な風景を描き切るような重厚なバスライン・ドラムスが織り成す素晴らしいリズム隊さえも、このバイオリンを引き立てるためのスパイスと感じさせてしまうぐらい、その響きの美しさは圧倒的。

 物憂げなギターによる静かな立ち上がりから、そのバイオリンの音色とともに荒々しく打ち鳴らされるドラミングの海へと飛び込んでいくタイトルトラック"The Burden Of Hope"、ウィーンの町を覆う灰色の雲を想起させるようなバイオリンストリングスと、雷鳴のように轟くディストーションギターのコントラストが鮮烈な"The Deed"、その流れから突入し、神々しいまでの光を放ちながら乱打されるピアノにより高みへと導かれる"In The Beginning"、そして、歴戦の兵士の凱旋帰国を祝う街の光景が脳裏に浮かぶような華々しい輝きを放つ"Space Prophet Dogon"(Sun City Girlsのカヴァー)により、一つのクライマックスを迎える。Tr.7、8では彼らの持つ暖かみのあるメロディーの美しさを前面に感じ、Tr.9では再び荒々しくも気高い、絶対的な構築力を持ったバンドアンサンブルが現れる。そしてTr.10"Canyon Hymn"により、日差し降り注ぐ穏やかな波間に漂うような心地良さを覚えながら、アルバムは幕を閉じる。

 各楽器それぞれの音は、いたずらに高揚感を煽るようなものではないにも関わらず、その全てが調和して生まれるGrailsのサウンドは、圧倒的な解放感と、美しく・完璧な物語性をもっている。多くの民族が覇権を求めてせめぎ合っていた壮大な古代ヨーロッパ史を紐解いた後のような、はたまた異国への大きな旅を終えた直後に覚えるような心地良い気だるさを味わうことの出来る、特異な作品である。

Black Tar Prophecies 1,2,& 3

★★★★☆

USオレゴン州のインストゥルメンタルバンド、Grailsの3rd。在籍していたNeurotを離れ、Importantレコードよりリリースされた本作は、これまで12インチ・オンリーでリリースしていたBlack Tar Prophecies Vol.2の4曲に、これからリリースされるRed Sparowesとのスプリット12インチ収録の3曲を併せ、さらに新曲2曲を収録した内容となっている。

2005年のヨーロッパツアーからの帰国後、オリジナルメンバーでもありバンドのサウンドの核を成していたバイオリニスト/Timothy Hornerが突如として失踪。原因及びその行方は、今もって全く不明であるという。そうした悲劇がバンドに与えた作用は非常に大きく、今作では過去2作とはほとんど別物とも言える音像が、なんとも重厚に立ち込めている。そしてこれが非常に素晴らしい。

空間を漆黒で塗り潰すかのように歪み、蕩揺たうギターノイズの深奥から、東洋的な響きのアコギ・種々のストリングスが絡み合いながら浮かび上がるオープングトラック"Back to the Monastery"、音というよりはほとんど波動となって打ち寄せる、超重厚なディストーションギター/ベースが織り成す暗黒空間で、スタタタンと抜けの良いスネアが点描を注ぐハイパードローン"Belgian Wake-Up Drill"、余りにも物悲しく響くアコギとスライドギターが絡み合い、視界を哀愁で煙らせていく"Smokey Room"へと続く。

音はさらに深みを増す。ヂリヂリと蠢くノイズを背景に、再びヘヴィなアンサンブルが現出、ジャジーなピアノラインを挟み込みながら暗黒模様のサイケデリアを描き出していくTr.5"Black Tar Frequencies"、妖艶なギターにバンジョーやブズーキ(ギリシャの民族器楽)が絡み合い、中近東の神秘的なヴェールを纏った昂揚を生み出していくTr.6"Stray Dog "へと至る流れは相当に素晴らしい。

そして終曲"Black Tar Prophecy "
ほとんど読経に聴こえるギター(?)ノイズの上方で、オリエンタルな響きのギターアルペジオやフルート、アルトサクソフォンやサンプリングがジットリと有機的なグルーヴを生成し、全てを歪みの渦へと巻き込んでいく9分間は圧巻。時に漠とした大地を吹き抜ける風の荒みを思わせ、脳内で一つのシーンを描き出していくその音は、ある面でGY!BEに通じるものも感じさせる。

Timothyの失踪を聞いた時には、ハッキリ言ってこれで終わりだと思ったが、バンドの一側面を相当に掘り下げ深化させ生み出された本作の音は、なんともオリジナルでなおかつ非常に刺激的。個人的にかなりオススメのアルバム。

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Burning Off Impurities

★★★★

 USポートランドの4人組/Grailsの4thアルバム(厳密な意味でのフルアルバムとしては3作目)。底無しの暗黒へと沈み込んでいくような、荒涼たる風景を湧出させた前作"Black Tar Prophecies"。このままそのドローンの暗中へと、ひたすらに深く突き進んでいくのかと思っていたが、今作ではそのアブストラクトな空気を切り裂くように鮮烈な旋律が射し込まれる、初期よりのカタルシスを演出する瞬間が多くみられる。

オープニングトラック"Soft Temple"
泰然として歩むリズム隊、多種の弦楽/鍵盤が織り成す絢爛たるオリエンタリズム。大上段から振り下ろされ濃密に場を埋める豪快なギターリフは、フェイバリットバンドの一つにBlack Sabbathを挙げる彼らの楽曲の根幹に、HR/HM的要素が在ることを気づかせる。

しかしひとたびその音の全景へと目を遣った時、核心はいとも容易く覆い隠される。バンジョーやペダルスチールを含む種々の弦楽が織り成す、余りにもオリエンタルな音のヴェール。滲み出るように色濃く湧き立つその煙幕は、時に強烈な郷愁で景色を煙らせ、時に燦爛たる光と化して空間を埋め尽くす。エキゾチック・ドローン?オリエンタル・ヘヴィロック?なんとも形容の得難い、異質な音像とその昂揚感。

その音は、まるで脳裏に漠とした異国の景色を描き出すよう。その風景は、華やぎの背後に異常な重みを帯びた東欧の猥雑な街並みであったり、またある時には無人の荒れ地を風が走るモノクロの光景であったりと様々だが、その場の空気に取り包まれるような感覚は、メロディや展開に拠るそれとは全く別物の極めて独特な昂揚感を生み放つ。2ndアルバム"Redligjht"のレビューで、その感覚を「覚醒と半覚醒の狭間」とも書いたが、輪郭の掴み難い壮麗な楽曲は、一般の「ポストロック」とも「アンビエント」もしくは「ドローン」とも異なる、かなり特異な世界を持っている。

幾重にも絡み合うフィードバックノイズ、ハープシコード(?)のリフレインが不可思議な昂揚を煽るTr.5"Outer Banks"。ほとんど民族器楽然とした、異常に抜けの良いスネアを叩き込むEmil Amosのドラミングを基軸とし、全ての音が渾然として湧き上がる楽曲は、Grailsというバンドの世界観/型に嵌らぬ展開/独特のメロディセンスが凝縮された刺激的なナンバー。

渾沌とも言うべき独特のアブストラクトな雰囲気はそのままに、しかしほぼ全ての楽曲に明快な"沸点"が付与された今作は、従来以上の広き範囲へとアピールする魅力を持った1枚であると思う。某モノに呼んでもらう形でも何でも良いので、是非ともこれを機に来日して欲しいものです。

Take Refuge In Clean Living

★★★★

Temporary ResidenceからImportantへレーベルを回帰しリリースされた5thアルバム。アブストラクトな蠢きを見せるオリエンタル・ドローンの気質は不動。非常な深みを湛える灰褐色の音像と、中で軽やかに泳ぐメロディが自然に同棲する。重低奏音により吹き飛ばされた空間で鳴る色めきの音因子が、何ともかんともインプレッシブ。

混濁と覚醒
壮麗なる無物
嵐の中の静けさ
混沌の地にある安寧

重くうねり起つ超級のリズム隊に、12弦ギター/チェンバロ/ペダル・スティールといった弦楽群が雅楽的な旋律を被せるオープニングトラック"Stoned At The Taj Again"は、中途から走り出すベースに乗って、漆黒のバースト・ゾーンへと雪崩れ込む。意表を突くVenturesのカヴァー・トラック"11th Hour"では、しかし僅かな気配だけを残して原曲を完全に解体。ゴシックとも典雅とも言い難い和洋魂才の旋律が怪しく浮かび揺らめき、脳裏に強い残像を置き消えていく。初期を思わせる絢爛たるギターワーク主体に、教会音楽然とした鍵盤の旋律を交えながら、太古の事象を物語るように音が流れていく"Take Refuge"がハイライト。ドロニッシュなノイズの中から、えも言われぬ美しいピアノ/バイオリンの旋律が滲み出すラストトラックへと連なっていく。

前々作での流れをさらに煮詰めていったような本作。全5曲/32分のボリュームはややアッサリし過ぎな感もあるが、次々と新しいフェーズを拓いていく様にはいつも興奮させられる。本作ではドラム/パーカスではなく、ギター奏者の位置に立ったEmil Amos。今週、OMのドラマーとして来日する。

Doomsdayer's Holiday

★★★★

これまでになく強烈なアートワークが眼を惹く6thアルバム。エンジニアにEarth,Sunn O)))等を手掛けるRandall Dunnを迎え、前作から18ヶ月でレコーディング/マスタリングを完了しリリースされた。

空間を掌握する奇怪な音像はさらにその純度を増している。残酷だが同時に極めて美しい、、、そんな無声映画を観るような不思議な陶酔感。断末魔の悲鳴にも聴こえる遠景の叫びから始まる本作は、明確な物語性を廃し、朧で幻想的な光景とそこから生まれる恍惚を感覚的に印象づける。

打ちつけられる不穏な重奏から、中近東めいた怒涛の喧騒へと放り出されるTr.2"Reincarnation Blues"へ。民族器楽の引導により炸裂するヘヴィなアンサンブルが、「輪廻するブルーズ」の称号どおり、繰り返しの巨大な狂騒を投げ掛ける。Alan Bishop(SUN CITY GIRLS)のヴォーカル(と言ってもほとんど密教の儀式めいた呻きだが)をフューチャーしたTr.5"Predestination Blues"でも、悠久を悟らせるメロディアスなベースが反復して出現。これらの楽曲のインパクトは大きく魅力的だが、反面、前作/前々作の延長線に在る印象は強い。

一方で、ほとんど異教の集会めいた不気味な気配が充満する"X-Contaminators"は、先に書いた"空間の掌握"という点で強い印象を残す。猥雑にして限りなく透明、狂騒を閉じ込めた静謐な気配。贄に供さるる者の恐怖と恍惚、そんなものも連想させる、恐らくライブでは再現不能だと思われる空間が此処には封じられている。初期から追っていたこともあり、どうしても信者めいた語りになるのでもう最後にするが、好き嫌いは別としてこのバンドの醸す気配/創る空間は無二。叶うならば、一度でいいから来日を願う。

ZAK RILES/S.T

★★★★

GRAILSのギタリスト/William Zakary Rilesによるソロ・プロジェクト。同じくGRAILSからWilliam Slater(チェンバロ)、近年のアルバムにサポートとして加わっているJordan Hudson(パーカッション、ヴィヴラフォン)、Kate O'brien(ヴァイオリン)が参加。

GRAILSといえば、現在ではOMのドラマーも務めるEmil Aimosこそが核だと思っていたんだが、実際のキーマンはこのZakかも。特にGRAILS初期頃のオリエンタリズム溢れるサウンド・スケープが好みならば、今作は絶対に買い。非日常的な愉悦を誘うアコギの波に、異様を重ねるようにサイレンが鳴り響く"Pacific Siren"を皮切りに、絢爛たるオリエンタリズムの波が溢れ、うねりをもって流れ出す。重厚なサイケデリアに揉みしだかれる前半部から、起伏を落としたシネマティックな音景、パーカッシヴなギター/リズムの飛礫に洗われる中後半へと流れていく。轟き炸裂する雷鳴と共に、しかし反対に嵐の後に射す陽光めいた明るさを感じさせるメロディが進行するラスト"Chloe"で幕を閉じるまで、シンプルだが非常に味わい深い世界が提示されている。素晴らしい。

http://www.myspace.com/wmzacharyriles

GRAILS/Black Tar Prophecies Vol.4

★★★★

オレゴン州ポートランドのインストゥルメンタル・バンド/GRAILSの最新作。2006年よりコンスタントにリリースを続ける"Black Tar"シリーズの第4弾。

Grailsが鳴らすインストゥルメンタル・ミュージックには、フェデリコ・フェリーニの映画ような(PVのイメージもあるけど)幻想的な陶酔と、同時に漠として容易な理解を拒む怪奇的な感触が漂う。心象風景のサントラめいて、とりわけそんな印象が強いこのシリーズ。キャッチー、という意味での押し出しは控えめな全容だが、Tr.2"Self-Hypnosis"は別格。通奏される旋律が、どこか異様な陶酔(ピンクフロイドやクリムゾンを聴いてるときの感覚に似てる)を浮かばせる。単純に「エキゾチック」という形容に終わらないこの旅愁のような雰囲気に、新たな音の側面も見えた。今秋リリース予定(来年に延びそうだが)の新譜はTemporary Residence より。なのでこちらはややキャッチーな仕様についても期待できるかも!

Deep Politics

★★★★

オレゴン州ポートランドの異的インストゥルメンタル奏操(送葬)バンド/Grailsの7thアルバム。

Temporary Residenceからのリリース、という前情報から、幾分『ポストロック』的な仕様へ振り戻るのかと予想していたが、結果としては先にリリースされた"Black Tar Prophecies Vol.4"をさらに掘り下げたディープな仕様。もはやオリエンタル/ドローンという形容では追いつかない深みを持った音の淵が、冒頭からポッカリ御口を拡げて立ち現れる。展開、というよりはそのサウンドスケープの異様な深度に圧倒される"Future Primitive"を皮切りに、さながら時空を捻じ曲げるような音像があふれ出す。途轍もなくヘヴィだが、一方で絹のような哀愁の心もとなさも漂わせ、あるいは異国情緒のえもいわれぬ恍惚で奮わせながら、蠢き立つ奥底からの咆哮が暗鬱たる気配で全身を呑み込むフィルム・ノワール・ミュージック。独自の音像で空間を掌握した前作から、さらなる深みを鳴らしてみせた本作。この独特の「風景」を奏でるサウンドが、いわゆる「音楽的興奮」を求める初聴時のリスナーにいったいどれだけ訴求するかは分からないが、これほどにユニークで、かつそれが強烈な非日常のカタルシスへと結びつく音楽/バンドはそう居ないだろう。スリーヴ仕様のジャケット・イラストも物凄く良い。ぜひとも一度、聴いてもらえれば嬉しいです。

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