SPIRITUALIZED/Lazer Guided Melodies

★★★★☆

90年に事実上の解散を見たSPACEMEN3の一員、J.Spacemen(J.Pierce)を中心として始動したUKのスペース・ロックバンドによる92年発の1st。S3のサウンドから粗く凶暴な表層を削り取り、結果としてそのアブナイ酩酊作用をよりダイレクトに注ぎ入れてくるような、ひたすらにドラッギィで危険な福音に満ちた名盤。三途の河めいて流れるシンセの旋律、激烈にナイーヴな詩情を紡ぐヴォーカル、震えるトレモロ、振り下ろされるファズのトーンが秘めやかに、大胆に折り重なり、その厚みを自在に変幻させながら常世の何処でもない何処か(それを宇宙といってもいいかもしれない)を描いている。そのほとんどが基本の5,6音から構成されるミニマリスティックな楽曲群から成る1時間超だが、それでいて退屈を思わせるどころか、逆に言いようのない高みを遍く描き出している。Spiritualizedと言えば3rdの「宇宙遊泳」がおそらくもっとも有名だが、今作と続く2ndには、その宇宙遊泳以降とは全く異質のプリミティヴな感覚が、何よりも強く張り巡らされて感じられる。

Pure Phase

★★★★★

95年発の2nd。彼らのスタジオアルバムのうちで1枚挙げるとすれば、間違いなく本作。体内宇宙の具現化にも等しい無二の空間が、奇跡的なバランスのもとに閉じ込められている傑作。これ以上ないほどに繊細で、美しく、同時にけたたましく壮麗な音響空間が完璧な世界を形作っている。甘美な感傷に惑う旋律や、狂ったように突き刺さる轟音の透明な重奏が計算され尽くした配置でもって、それでいて極自然的に鳴っているという至福。冒頭の"Medication"、中盤の"Let It Flow"や"Electric Main"、さらには現在でもステージにおけるパフォーマンスの始終に渡って流され続けている"Pure Phase"まで、楽曲個体としても最強のチューンが犇めいている極上の一枚。文句なしに美しく、無二の酩酊を誘う名盤。

Ladies And Gentlemen We Are Floating In Space

★★★★☆

97年発の3rd。過去2作と比較して本作が全く異なって響くのは、何よりもそれが「外」へのプレゼンテーションを志向したように見えるサウンドだからだろうか。宇宙遊泳という邦題が決して大仰に聞こえない本作は、それほどまでに緻密で、大胆に構築されている。収められた楽曲群は時に憂鬱で(Broken Heart)、また酷く感傷的で(Stay With Me)、騒々しいまでの邪悪さ(Come Together、Cop Shoot Cop...)や攻撃的な狂熱に浮かされた(Electricity)数多の感情を、信じられないぐらいに複雑な音の組成によって的確に描き分け、一つの空間に繋ぎ止めている。曖昧で、故に圧倒的な深みを揺蕩わせていた前2作との決定的な差異が、此処には感じられる。

Royal Albert Hall October 10, 1997

★★★★★

先の2ndの感想中でわざわざ「スタジオ盤では」と断わったのにはワケがあって、もし仮に初めてSPIRITUAZLIZEDを聴く人間に薦めるとすれば、個人的にはこのライブ盤を渡したいと思うから。タイトルが示すとおり、97年に英国ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われたライブを収録した本作は、2枚組/80分超に及ぶ筆舌に尽くし難い空間を閉じ込めている。冒頭"Oh Happy Day"の感傷的な歌い出しから業火のようなノイズに焼かれ、その焔が収斂した直後に光が切り込む"Shine A Light"からして、ほとんど神を眼前に見せられたかのような衝撃を喰らう。後は、もう言葉にすら出来ない。あえて言うなら、極上の酩酊と覚醒だけがひたすら、在る。ほんっとうにヤヴァイ。彼らのライブの凄まじさ、それを少なくとも音響面では余すところなく閉じ込めているだろう、最強の作品。

The Complete Works Volume.1

★★★★

Spiritualizedの2枚組み×2=4枚組となるレア音源集。まずVol1は1st〜2nd期にリリースされたシングルB面等の音源の中から、Jason自身がセレクトしたレア音源がCD2枚組で計24曲入っている。シングルを手に入れることが非常に難しいバンドなだけに、こういったアルバムはすごく嬉しい。

CD1のほうにはデビューシングルの"Anyway That You Want"や"Feel So Sadの3バージョン、ヴェルヴェッツへのトリビュート曲"Run"のシングルバージョンなどが収録されていて、長い間聴くことができなかったレア音源が満載。しかもどの曲も最高に気持ち良い。一方のCD2はより破壊力のある曲群が多い。雷鳴のように鳴り響くギターが強烈な"I Want You('Run B-Side Version')"や、Fuzzギターで幕を開け、中盤で加わる凄まじいドラミングとともにキーボードとサックス、ノイジーギターのサウンドが一体となってとんでもない高揚感を撒き散らしている"Smiles(Medication promo single version)"は、このアルバムのハイライト。他にも取り上げきれないぐらい素晴らしい曲が満載で、これまでスピの音に触れた事のない人にもアピール度十分なアルバム。

The Complete Works Volume.2

★★★★

Vol.2では、「LADIES AND GENTLEMEN WE ARE FLOATING IN SPACE」から「LET IT COME DOWN」までのレアトラックが計26曲収録されている。

幻想的な雰囲気を生み出す壮大なバックコーラスに、一気に厚みを増したメロディーが流れ込んでくる瞬間が鳥肌ものの"Let It Flow"を始め、Broken Heartのインストバージョンなど、オーケストレーションが美しく広大な空間をイメージさせる曲が多い。Vol.2ではアルバム収録曲やそのインストナンバーが結構あるので、Vol.1よりもレア度は低いかもしれないが、X‐Fileのテーマ曲のカヴァーバージョンや、アメリカ合衆国国家をノイジーギターと乱打されるドラミングで装飾して、スピリチュアライズド流の長尺サイケデリックナンバーに変えてしまっている"Amazing Grace(Peace on Earth)"、Come Togetherのliveバージョンなど、インパクトのある曲も入ってたりして面白い。シングル持ってない自分のような人間にとってはすごく中身の濃いアルバムで非常に満足。

Let It Come Down

★★★★☆

01年発の4th。Spiritualizedというバンドは、その作品が進むごとにジェイソン・ピアースという人間の生身の気配が強まって聴こえてくるように思うのだが、そもそものそんな感触を初めて抱いたのが本作。往時のメンバー全員を解雇し、ジェイソンのソロ・プロジェクトとして製作された。ジェントルなピアノの一閃から始まる"On Fire"からして、ほとんど破滅願望に近い苛烈さや、はたまた気が触れたかのように誇大なスケールで提示される楽曲群が、圧巻。人力サイケの極地とも言えそうなゴスペル隊やフル・オーケストラなど総勢100名を超える布陣により表現された、狂った男のパーソナリティが素晴らしすぎます。

Amazing Grace

★★★★

03年発の5th。3週間足らずで録音工程を終えたという本作での「剥き出し」の楽曲群は、レコーディングに4年の歳月をかけた前作の「過剰さ」とは対極にあると言えるのかもしれない。しかしその一方で、何かに挑み、そして敗れた男の感傷と抑鬱と狂暴を思わせるメンタリティが最前に打ち出されるサウンドは、その意味においてはこれまでになく特異な過剰さを感じさせる。シンプルなだけに、全体で見れば前作の「縮小再生産」といった謗りも免れ得ないのだろうが、狂暴と静謐がクロスオーヴァーする、あるいは暴風の中で感傷的なアンサンブルを奏でるカルテットを思わせる"Hold On"、シンプルな輝きの合奏によって聖性へと肉薄する"Lord Let It Rain On Me"、軽やかなKeyのフレーズ/フィードバックノイズの放蕩が交錯するガレージ・ロッキンな"Cheapstar"をはじめとし、楽曲個体としてはなかなかどうして、これまでになくその魅力の本質を体感できる良曲がひしめく。加えて、シンプリシティに貫かれたアルバムにおいてラスト2曲が魅せる、繊細で複雑な音の交錯も素晴らしい。

Songs In A&E

★★★★

前作"Amazing Grace"から5年ぶり、通産6枚目となるアルバム。Spiritualizedの作品にはどれもJ.Pierceの内面性(世界/感情)が支配的に漂っているが、今作ではそれが特に顕著。ナイーヴで脆いパーソナリティがそのまま「色」になったような、柔らかで複雑な光が蕩揺たっている。

危うい振りキレ具合を見せる"Yeah yeah"、"You lie you cheat"あたりのサイケデリック・ガレージ、ゴスペル・コーラスを取り込んだ"Soul On Fire"、感傷的な旋律を弦楽が彩る"Sitting On Fire"などなど、前作・前々作の流れを縮小再生産したような印象。数曲毎にそれぞれメロトロン/ピアノ/アコーディオン/グロッケンといった器楽でインタールードが挿し挟んだりもするものの、そこにも取り立てて大きなコンセプト性は感じられない。

宇宙へと飛び立つこともなく、また必要以上にササクレ立ったフェーズを展開するでもないナイーヴな音像は、それはそれでまた新しい局面だと見ることもできるが、おそらく従来からのファン以外へのアピール性は低い。J.Pierceという男が歩んできた道のりや、その人と生りを出汁に出来る人ほど美味しく味わえる、そんな作品。

Sweet Heart Sweet Life

★★★★☆

これ聴いて「キター!!!」と悶絶喜んだスピファンは少なくない、と見ているのだがどうだろう。約4年ぶりとなる新作は、個人的には『宇宙遊泳』以降最高の内容だと思う。

静かに高揚するオーケストレーション"Huh(intro)"から流れ込む"Hey Jane"がなんてったってヤバイのだ。言うなれば、かつての名カバー曲"Run"をもっとファンキーにぶっ飛ばしたようなナンバー。バックに湧き立つハッピーなコーラスは、まるで初期頃のMERCURY REV!!みたいなイカれたサイケデリアを感じさせる。

この初っ端で生まれた奇天烈な磁場が、ラストまで強烈なハーモニーとして作品全体を包括して鳴らす。いや、音そのものというより雰囲気かもしれんが。どちらかと言えば楽曲ごとのブツ切り感が強かった近作と違い、今回ではトータルを貫く流れがある。恥ずかしいほどにナイーヴなメロディラインで落とす"Too Late"や"Life Is A Problem"、延々敷き述べられるかに見えるFUZZギターのジャンクネスがたまらん"Headin' For The Top Now"あるいはそこへゴスペル/ノイズが加算される"I Am What I Am"なんてのもあれば、かたや一瞬でクリーンな音像へと転換する"Freedom"が飛び出したりと、その並べ方、鳴らし方にハッキリ「魅せる」意図が感じられる。そこがなんとも格好良く、小躍りしたくなるような昂ぶりを誘う。

初期の「Pure Phase」に覆われたサイケデリックな潮流と、Jasonの(センチ)メンタルが色濃く滲む近作を絶妙に内包し、軽やかな「ロケンロー」として鳴らす本作。ほんま、やってくれました!今年度BEST級のサプライズ。

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