MAYBESHEWILL/Japanese Spy Transcript EP

★★★★☆

英国中部の田舎街・レスター出身の4人組/メイビーシーウィルのデビューEP。

そこでは音が
怜悧な音塊が
焔と化した轟音が
常夜の闇に乱舞する

冷ややかな叙情溢れる流麗なメロディ、高速で散布されるデジタルビート、それらを怒涛のドリルン・ベースと硬質のディストーションギターに乗せて一気に吐き出す様は、まさしく65daysofstatic。彼らもまたMogwai + Aphex Twinの形容をもって迎えられる、新世代デジタルロック・サウンドの駆使者である。

高音の鍵盤器楽が昂揚神経をチリチリと焦がし、全放出される轟音が破壊的な美しさでもって総身を滅する。映画『Rules Of Atrraction』からのサンプリング・コラージュも、刹那の情動と焦燥、破壊衝動渦巻く楽曲に見事にハマっている。小憎たらしいほどに端正で、完璧に構築された楽曲群。あまりに出来すぎていて悔しいが、やはり好きなのだ、こういう音が。アルバムでもこの世界を打ち立てれたなら、これは凄いバンドになるかもしれない。

Not For The Want Of Trying

★★★☆

デビューEPから約2年、英国レスターの4人組(うち2名は新メンバー)によるデビュー・フル。無理に褒め上げることも出来んことはないが、デッカク抱いてた期待には遠く及ばずというのが素直な所感。

"Aphex Twin+Mogwai"と形容されるそのスタイルは、炸裂に至る轟音の昂揚と、デジタルビート/サンプリングの直接性を掛け合わせた攻撃的な代物。彼らの場合、ウブなまでに蒼いメロディ/彩色の直情性こそが65dosとは一線を画す強みだと思ってたんだけど、今作では多くの楽曲で顔を出す中途半端な色気によって、その個性とも言うべき世界観が相当に埋没してしまっている。

先行シングルでもあったTr.2"Seraphim & Cherubim"や、先のEPにも収録されていたTr.3"The Paris Hillton〜"での感傷的な旋律/穿たれるドリルンベース/華麗に炸裂する轟音という組み合わせはホントにイイ。が、単にメタリックな重量・質感を試してみただけのようなTr.5"We Called For Ambulance〜"やTr.7"C.N.T.R.C.K.T"、インディー気質な唄モノヴォーカルを入れてみた"Heartflusters"、EPから大幅な編曲を行って最後にはアイタタなコーラスが湧き上がるTr.8"He Films The Clouds Pt.2"など、その安直な音の拡幅が逆に全体に散漫な印象を与えてるように思えてならん。

この人らの最大の強みって、映画もろもろからサンプリングしてくる会話音声の絡め方だと個人的には思っている。刺さるような感傷と甘苦しい郷愁溢れるサウンドにそれが乗ることで、全体が異常にドラマティックな輝きを放つというか。今回のアルバム中でもタイトルトラックのTr.9は物凄くキョーレツに光ってるんだが、先のEPと決定的に違うのは、他がそれを盛り立てる形で一つのイメージを醸成していないところ。これがナントモ残念だった。マイスペを見ると6月の関東公演が載ってたけど、関西にも来るならライブは一度観てみたい。

Sing The Word Hope In Four-Part Harmony

★★★★

約1年の短スパンでリリースされた2ndフル。それが功を奏したか、ややアタマでっかちな感じが強かった前作に比べ、バンドの持ち味が素直に表出する好盤になっている。

直情的なリフ+扇情的なサンプリングで織り成される私的ドラマティックなインストロック。映画やドキュメンタリー・フィルムから抜き出されるサンプリングは、楽曲のスパイスではなくむしろ主客。リリカルな旋律&激情のメタリック・リフがそれらを劇的に演出し、強烈な感傷と蒼い昂揚を倍加させ叩きつけてくる。いわば初期の65daysofstaticをモロに踏襲するサウンドながら、焼けつくような情動の鮮烈な描写のウマさがとにかく抜群に素晴らしく、これこそがバンド最強の持ち味なんである。

そうした意味で、端々でありがちなインディー・ポストロック路線へ流れ聴こえた前作よりも、音の「直情性」を前面に打ち出し突き刺さる今作の鋭さはナイス!不器用に躓きながら変拍子を刻むオープナーから、高域の轟音が煌びやかに砕けるTr.2"Co-Conspirators"へ。ここで早くもほの暗いナレーションが立ち現れ、取り巻く空気がガラリ変化。必殺の激烈センチメンタルな鍵盤フレーズを散りばめながらダークな轟音ドラマを完結して魅せる!続く"This Time Last Year"ではのっけからヘヴィ・メタリックなリフが唸りをあげ、しかしそこから再びリリカルな旋律を踊らせ、蒼さ迸るサンプリングでキメる。インスト・メタルのうま味を洩れなく抽出する"How To Have Sex With A Ghost"、仄暗いビートに意味深なサンプリングが重ねられ闇の淵からの昂揚を煽る"Our History Will Be What We Make Of It"、先のTr.3と対を成し、激情と感傷がない交ぜとなったMaybeshewill節を炸裂させる"Last Time This Year"からラストのタイトルトラックに至るまで、決定的な鮮烈こそないものの非常に粒ぞろいの佳曲が並んでマス。

I Was Here For a Moment, Then I Was Gone

★★★★

日常に漂うエモーションを、ドラマティックな音の激流として表出させる英国レスターの4人組。前作から約2年のスパンでリリースされた3rdアルバムでも、その大きな流れは変わらない。

しかし今作では、これまで見られた「劇場型」のサンプリングは持ち込まれず、さらにはリズム面でも従来のような複雑な拍子のデジタルビートは抑えられ、よりLIVE感の強まったトラックが多く並ぶ。

ために、トータルでの煽情性は弱まった。青臭いまでの情動を、ヒリヒリと焼けつくような鋭さで演出するそのベタさこそがキモだっただけに、とりわけ前半部ではちょっとした物足りなさを感じる。それでも、アルバムは中盤以降で盛り返す。ファンタジックに、センチメンタルに舞う鍵盤が彼ら本来のイロ気を見せ始めるTr.5"Accolades"やTr.6"An End To Camaraderie"、物悲しいヴァイオリンの旋律とリリカルに反復するピアノが美しい情感を描き上げ、湧き立つ轟音とともにカタルティックな瞬間を描くTr.8"Farewell Sarajevo"、そしてもはや「Maybeshewill節」と言ってよさそうな旋律が舞う"To The Skies From A Hillside"は、空間をズタズタに刻むメタリカルなリフを召喚し、このラストトラックにきてようやく彼らの持ち味が本来の光を放っている。ただやはり個人的には、映画やスピーチなどから拝借し、そのエモーションを万倍にも増幅させる彼らのサンプリング能力にこそ魅力を感じているため、そこがなくなってしまった本作はやや物足りなくはある。

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