THE MARS VOLTA/De-Loused In The Comatorium

★★★★

03年リリースの1st。ウネリ立つ怒涛のラッシュが産む、巨大な有機の威容で迫る2nd"Frances The Mute"と比べると、展開構成の練り具合は抑えめ。一言でいうならコンパクト。その分、楽曲個体のインパクトというか、パーツパーツの印象が非常に鮮やかで、強い。

とりわけ、ジョン・セオドアのドラミングは強烈。異常に強いアタックでしなやかに爆ぜるリズムの塊は、この上なく明瞭な輪郭のマッチョネスで全体を軽々と牽引する。オマー・ロドリゲスの情熱的なギターワークは今作でも充分自由に空間を駆け巡るが、それでも後作と比べればかなりその範囲に抑制が効いており、鋭い炸裂と伸びやかやな解放を、短いサイクルで鮮烈に描き出していく。

メロドラマチックな叙情と、破裂的に打ち鳴らされる音の塊が入れ子で展開しカタルシスを放つ"Roulette Dares (The Haunt Of)"、性急に振り乱れる旋律が、クライマックスで怒涛のヴォルタリズムへと収斂する"Drunkship Of Lanterns"など、随所で突発的な熱を放出する曲群が物凄く格好良い。個人的にはこの他に"Eriatarka ""Cicatriz Esp"""Take The Veil Cerpin Taxt"あたりの楽曲に、異様な昂奮を覚えます。

逆に、上記楽曲以外の楽曲は少し不完全燃焼気味。なので、昂揚の落差が大きい作品でもある。時間的に最も近いので当たり前だが、At The Drive In時代からのリスナーにより強く訴求していきそうな、強いタフネスとハイライトを持ったアルバムではないでしょうか。

Frances The Mute

★★★★☆

 まず言ってしまおう、「凄まじい作品だ」。”スゴイ”のではなく、”凄まじい”。扇情的なセドリックの声、あらん限りの熱量を放出するオマーのギター、そしてジョン・セオドアのしなやかに爆ぜる破壊的なドラミングと、その神憑り的に高い個々の演奏レベルは勿論”スゴイ”のだが、The Mars Voltaという存在が吐き出したこの有機的な一枚の作品は、そうした表層的な面を遥かに超えた部分で五感を昂ぶらせ、内側から肉体を突き動かす凄まじさを持っている。

 抽象的な物言いになってしまった。ここまで形容が難しい作品もまた、無い。総時間にして70分強。形式上いくつかのパートに分けられているものの、明らかにその楽曲は全てで一つのモノを形成している。蠢く轟音から一気に彼方へと飛翔する高揚感、直情的なインプロヴィゼーションからサルサピアノのチルな空気感まで、相当な物量を詰め込んだ楽曲群。にも関わらず、そこにあるのは研ぎ澄まされた鋭利な刃物を思わせる張りつめた緊張感、そしてあまりにも生々しい熱情。"The Widow"以降においては、さらに加熱・加速する音の化学反応をもう止められず、随所で核爆発を起こしながらクライマックスへと驀進していく。

 1枚目もそのオリジナリティには目を見張るものがあったが、今作を聴いてしまうと、もう聴けない。あれはお遊戯だったのか。私は、ATDIをよく知らない。だから比べてどうこう言う人にはこういう風にしか言えない。「これを聴かないで死ぬのは勿体無いよ」と。

Amputecture

★★★★

前作から約18ヶ月という、比較的短いスパンでリリースされた3rd。物量的にも質的にも、相変わらず非常に濃い内容の作品であるが、異常なまでに劇的な展開を孕んでいた前作と比べると、その起伏に富んだ音の地形が随分とキレイに整地された感を受ける。

即効性のあるリフやメロディを随所に効果的に嵌め込みながら、セドリックの直情的で大胆な歌唱によって聴き手を瞬間的に惹きつける、そうした「一瞬一瞬」が作品を通して多く在るという点では、2ndよりも1stに近い要素を持っているといえるかもしれない。

造りのきめ細やかさのみならず、各パートの鳴り具合にしてみても、前作と比べてかなりその深みを増している、激しい上下動が無い代わり、高い昂揚の次元で絶えず感覚中枢を揺り動かされているような、非常にサイケデリックな酩酊作用をもったアルバムだ。

前作での"The Widow"から終局へと至る30分強においての、まるで熱帯を駆け巡るジェットコースターのようなスリルやエクスタシーは無い。猛り立つサクソフォンの狂態や、雷鳴を思わせる轟きで空間を歪ませたギターの凄みも感じられない。匂い立つような熱情を、その来るべき放出の瞬間へと向けてクドイほどに互いを煽りたて、時に溜め込み圧しながら、次第に加熱融合してクライマックスへと驀進していった「怒涛」の瞬間はほとんど感じられない。

エフェクトがけたギターや鍵盤器楽をスペーシーに錯綜させ、あるいは時にキワモノ的な響きを見せるセドリックの声音を飛び道具的に用いることで巧くエネルギーを四散させ、加えてスムーズで比較的早いテンポで展開させることにより、先に述べたような爆発的なインパクトに変えて、非常に入り込みやすく、小規模な快楽点を連続的に生み出すことに成功しているようにも思われる。「衝撃」や「超絶的進化」などという派手な形容は似合わないが、彼らにしか創り得ない音世界で、極めて高いクオリティを併せ持った本作は、素晴らしく良い作品だと思う。

http://www.myspace.com/themarsvolta

OMAR RODRIGUEZ/S.T

★★★★☆

Mars Voltaのギタリスト、オマー・ロドリゲス・ロペスの2ndアルバム。といってもそのMars Voltaのメンバーが、ほぼ全員参加している。

昨年リリースのMars Voltaの2nd同様、この作品もまた凄まじい。他バンドとは全く比べものにならない地平に存在する怪物アルバム。静かな銅鑼の響きにより幕を開ける今作は、Tr.2"Regenbogen~"からいきなりその凄みを見せつける。反復するベースの重低音が野太いグルーヴでもって逆巻き、耳朶に突き刺さるキーボードが舞い踊る。そしてそう、オマー・ロドリゲス!割れんばかりの雷鳴を思わせる歪んだギターワークは、まさしく「超絶」の一言。凄まじく情熱的なフレーズを怒涛の態で繰り出す様に、総身の髄から突き動かされずにいられない。舞い踊る妖艶なギターワークに応えるは、エイドリアン・ゴンザレスによる鬼のサクソフォン。ジャズの持つ泥臭く、攻撃的な側面を強く打ち出したそのフリーキーな演奏が、とてつもない破壊力/艶を作品に付与している。完璧に計算され尽くした「崩れ」を演出する、Tr.3"Jacob Van Lennepkade"での17分間に及ぶインプロヴィゼーションはまさしく圧巻。そこに鈍重さや緩慢な空気を読み取ることは不可能。凄まじい緊張感と昂揚、躍動渦巻く大曲。

ソロ名義での1stは、そのタイトルからも分かるとおりコンセプトが強すぎ、ハッキリ言って面白くなかった。が、今作は全くの別物。脳内を攪拌し、昂揚神経を刺激しまくるとんでもなく凄まじい一枚。微妙にダサいジャケに騙されてはいけません。買いましょう。

Se Dice Bisonte, No Buffalo

★★★★

The Mars Voltaのギタリスト/オマーのソロ3作目。ソロとは言え、前作同様にバンド・メンバーがほぼフルで参加している。

今作を大きく捉えると、1stでの朧なダーク・ファンタズムを纏ったシネマテイックな音像と、2ndでのエキゾチシズム漂う放埓なインプロヴィゼーションが巧く折り合わさった構造になっている。本家Mars Voltaのような、作品全体での濃密な構築感は弱めながら、並でないオリジナリティと刺激性を兼ね備えた楽曲個体は、相変わらずコチラを悶絶せしむる高インパクト。

最近のツアーでもお馴染みの"Rapid Fire Tollbooth"は、ライブでのヘヴィネスを減衰させ、逆にファンクネスを増幅させた艶かしいグルーヴが魅惑的。一音一音のフレーズを、暗いファンタズム漂う空間に刻印するオマーの情緒的なギターワークが強い印象を残すインスト曲"Thermometer Drinking the Bussness of Turnstiles"、揺れ泳ぐセドリックのファルセットがMUSEばりの耽美を迸らせる"Se Dice Bisonte, No Buffalo"などは、小作りの構成が逆に強い印象を残す。

一方Tr.7"Please Heat This Eventually"では、拡大再生産される猛烈なインプロがライブでの爆発的な興奮を呼び起こし、硬質な鍵盤の旋律が突き刺さるように舞い飛ぶラストトラック"La Tirania de La Tradicion"は、スペーシーな空間美と屈強なヴォルタリズム、パンキッシュな直情性が入り混ざった性急さで走り抜け、最近のインタヴュー等を踏まえるだに、本家の次作における展望の片鱗を(勝手に)感じ取ることも出来る。

また日本版のボーナスディスクには、元CANのダモ鈴木とのセッションが収録されている。ダモ鈴木の野趣溢れるヴォーカリゼーションと、オマーが緻密に描く奔放なギター・インプロが25分間にわたる不可思議な起伏を成していく。緊張と揺らぎ、屈強さとしなやかさ、野卑と洗練が絶妙に絡み合う様は、これまたなかなか刺激的。

オマーは既に、Hellaのザックとの競作についてもレコーディングを終えているのだとか。この有り余る創作意欲の噴出っぷりは驚きでもあり、大変うれしくもあります。

OMAR RODRIGUEZ LOPEZ & LYDIA LUNCH/S.T

★★★★

全長24分24秒。リスト上ではそれぞれタイトルの付された5つのトラックに分かれているが、実際その区切りに意味は無い。ノンストップで進行する攻撃的なアンサンブルと、直接的な言葉で煽動するLydia Lunchの言葉の奔流。

先のダモ鈴木とのコラボと比べると、明らかにリズム隊は重く屈強に迫り出し、逆にオマーのギターは後退。弾丸のような1フレーズを繰り返すホアンのベースと、ソリッドなリズムを刻むマルセルのドラミング。エイドリアンのサクソフォンは控えめに火を噴き、マニー・マークの手が全体にファンキッシュな躍動を色づける。磊落な不協和音と共に雪崩落ちるオマー印のギター・ワークは、後半部に至るまでナリを潜め、細かなフレージングで黒子に徹している。これはけっこう意外。

結果、主役として明確に押し出されるリディア・ランチ。吐き捨てるようなナレーションと、喚き散らされる口語の乱雑な交差。余りにあからさまな"壊れ"っぷりは、いささか鼻につく気がしないでもないが、コラボ作としてはこれぐらい明確な色が付いているぐらいが丁度良いのかも。ひしゃげた聖歌めいたものがユラユラと揺れ、ランチ嬢がサブマシンガンの如く言葉を乱射する"Getting Rid Of God"のくだりが、最もエキサイトした。

放任しても単体である程度サマになるダモ鈴木のようなインパクトは無いが、逆に全体として完全にランチを立てる方向で纏まっている今作は、かなりキャッチーで聴き易く、出来の良い一枚だと思う。こういうのをどんどん出してくれたら、聴き手としてはかなり楽しい。まだ年内に何枚かリリースが予定されているという、次のニューマテリアル群も早く聴きたい。

http://www.myspace.com/willieandersonrecordings

Calibration

★★★☆

ハイペースでリリースを続けるオマーのソロ4作目。どっかで1st"A Manual Dexterity"に近い〜とか書いてあったので、あれが全く好きでないワタクシとしては微妙な心持ちで臨んだ。だけどいや、全然違う。違うよね?違うやないか!と言ってもしゃあないのだが、違います。

形態としては前の『バッファロー』と同じ。オマー印のインプロヴァイズド・ギターを中軸に、各々強烈な手数でカオティックな狂騒をかます他パートが被さってくる。今作ではそこに、『Calibration=補整』のタイトルが示すとおり、かなりエキセントリックな音処理が施されているのが特徴。歪み過ぎてビリビリとノイズを放出する異常な重低音や、無雑作に飛び交う喧しい電子音、ディレイ効果で何重にも分裂しては跋扈するセドリックの声(今作ではジョン・フルシアンテがヴォーカルで参加してる曲もある)が立ち現れたりと、聴覚への直接的な刺激がかなり強い。

やたら混沌めいた狂騒の渦中で爆音がノタウチ、異常な熱が放出される本家TMVのライブ。それを疑似体験させるような感触が所々である。スタジオ録音で、なおかつ多重のMIX作業が行われてるわけだから、実際には全く「ナマ」の音ではないんだが、その積み重ねが全体として聴覚に及ぼす効果が、ヘタなライブ盤よりよっぽどLIVE的な興奮を錯覚させるというのはオモシロイなぁと思う。

さて、褒めておいて落とすわけではないが、全体としてはだいぶ物足りない。お馴染みの「終末ブツ切れ」トラックがあったり、南米映画のサントラのような(情熱的で殺伐として乾いた雰囲気は嫌いではないが)あまりヒネリの無い楽曲があったりと、やりたい事に関する部分以外は結構テキトー。先頃リリースのLydia Lunchとのコラボ作と比べると、だいぶ散漫な印象がある。

で、落としておいてフォローするわけではないが、TMVのフリーキーなインプロ部を好む人などは聴いていて燃える部分が結構あるはず。あと、新たにTMVのドラマーとして加入したThomas PridgenがTr.1、7、11で参加。かなりの手数と、切れ味鋭く冷たいリズムがかなりクール。全部生音なのかは分からんが、ハイハットの使い方とか格好良い。来年初頭には本家の『ゴリアテの混乱』に加え、既にLP先行でリリースされているオマーの『Apocalypse〜』もCDで出るとのこと。才能迸るままに、どんどんリリースしてくださいませ。楽しみです。

http://www.myspace.com/omarrodriguezquintet

The Bedlam In Goliath

★★★★

短期スパンでリリースを続けるThe Mars Volta"本家"の4th。いったんの延期を含みつつ、前作から16ヶ月弱でリリース。練り上げられた巨大な有機物なんかも思わせた、深々として強靭で、サイケデリックな調和をもった前作のグルーヴとはまた全く別の方向へシフト。"Bedlam=狂騒/混乱"とはよく言ったもので、ほとんど滅裂として脈絡の無い、喧騒的な爆音を叩き出している。

のっけから大音声のフルスロットル。各人が己の楽器を打ち鳴らし、奇っ怪に変態したセドリックのヴォーカルが掴みかかるそのサマに、それこそ「地球外生命体にインヴェードされる小市民の如き心境」を味わえる。キメを連発するまま転がり込む"Metatron"では、曲間で複数のリズムが交錯。ハイテンションで引っ張られ、不自然に折り曲げられる楽曲が、物量以上の満腹感を喰らわせてくる。

アルバム中で唯一、前作譲りの「揺れ」を感じるのがTr.3"Ilyena "。根源部分での「快」をくすぐるコンガ主体のリズム/グルーヴ。ミドルテンポの揺れに絡みつくメタリックなギター・テクスチャがかなり気持ち良い。それを前奏に突入する"Wax Simulacra"、コレ、今作を象徴するようなナンバーだな。何より、新ドラマーとしてバンドに加入したThomas Pridgen。若いってのは凄い!(そして恐い、、、)と思わず思う、やたらと目立つドラミング。めくら滅法に打ちまくる前方凝視型のプレイは、押し引きのバランスが極端に偏った本作そのもののようでもある。

言わばハイライトだらけ、炸裂しまくりのアルバムだけど、個人的にはタイトルトラックのTr.5が一番良かった。先のツアーでの定番曲で、オマー名義のアルバムにも収録されてた"Rapid Fire Tollbooth"の進化形。起承転結の怒涛っぷりが最も明快。熱っぽいヴォーカルに煽られ炸裂する、オマー印のギターワークがイイ!

しかしこの脈絡の無いハイテンション、さすがにTr.7"Cavalettas"あたりで疲れてくる(笑)。強制終了→再始を繰り返すような展開をここでまた演られるとキツイ。んで、Tr.3→4への流れをまたなぞるようにして、バッキバキのリフ/リズムが暴れる"Ouroboros"へ突っ込んでいくわけだが、まともに聴いてるともうこの辺で完全に耳が頭がココロが飽和。どっかと交信せんとする気色の悪い装飾まで取り込んだ"Soothsayer"あたり、イマイチ入ってる意味が分からない。

そんなわけで、頭から聴いてるとほとんど7曲目あたりで「終了」してまう。だけどまぁ考えてみると、この人らのアルバムってどれもこれも通して聴かないけど。ま、そんなんどうでもいいが。どこか別の場所へ行こうとして、まだイキきれていない、前作同様そんな印象を受ける作品。でも相変わらず独創的で昂揚感をいたく刺激するホンマに好きな音世界。単体で聴ける楽曲がテンコ盛りって意味で、これまでに無く良く出来たアルバムだって見方も出来るかと。また早くライブが観たい。

http://www.myspace.com/themarsvolta

The Apocalypse Inside Of An Orange

★★★★

05年リリースの"Omar Rodriguez"に続く、Quintet名義での2作目。とは言いつつ、どうやらレコーディングされたのは1作目と同期らしい。天空への雷撃/奈落への瓦解を繰り返すオマー印のインプロ主体に、フリーキーの渾沌を展開する仕様は確かに同様。一方で、ミックスやらナンやらの後作業の違いは明らかで、先の騒乱もひっくるめてこちらのほうがかなりスマートな印象を受ける。

銅鑼の音から始まる"Omar Rodriguez"で印象的だった、オリエンタル・ドローンな調べはココでは霧散。わぎゃわぎゃと戦慄くインプロの交雑にクッキリ浮かび上がるのは、70年代の電子マイルス志向のアヴァンな表情。ただ、アヴァンと言っても意味不明な破壊・構築がなされるわけではなく、展開はかなりスムースで聴き易い。

気怠く揺らめくリズム/サクソフォンの絡みから重金属質のブレイクへと一気に雪崩れ込むTr.2"Knee Deep in the Loving Hush of Heresy "始め、豊かな感性により紡がれる音は非常に刺激的。本家の"Viscera Eyes"を土台に、上でオマー/エイドリアン/M.マークのソロが順に執られる"Jacob van LennepkadeU"なんて曲もあるが、どっしりと揺ぎない鉄鍋の中で、熱く滾る異音のごった煮のようなサウンドは"Amputecture"に通じるものを感じる。タイトルトラックや"Fuerza de Liberacion"など、余分な長さを感じる抽象ナンバーもあるが、全体的によくまとまった佳作だと思う。

http://www.myspace.com/omarrodriguezquintet

OMAR RODRIGUEZ LOPEZ AND JEREMY MICHAEL WARD/Orl+Jmw

★★★

03年に他界したTMVの元メンバー、Jeremy Michael Wardとのコラボ作品。レコーディング時期はATDIが終焉を迎えた01年からTMV結成の03年までの間らしい。当初200枚限定のMDでリリースされていたものが、理由は不明ながら再発された。

残念ながら自分には一片たりとも理解不能。一連のオマー作と同じノリで買ったんだが、それとは似ても似つかぬ『実験的』な空間に消沈。全く掴めない抽象的な電子音/ノイズその他がピュルピュルキュキュキュオォーンと飛び交い続ける45分間に、展開やメロディらしきものが立ち現れる瞬間は皆無。作品中どっか1箇所ぐらいで『音楽』めいたところがあるよね?という思惑も完全にハズレ、本当に何も起こらないまま終わる。

思うに、此処には音を『音楽』たらしめようとする意思が働いていないのかも。ノイズでさえもそこに何らかの意図があれば楽曲に聴こえてくるが、今作はただ2人の頭の中にあるイメージを放り出してインスピレーションを高めているような、いわば創作の前段行為を見ている感じ。演ってる2人には当たり前だがなんも罪はなく、要はよく調べずに飛びついた自分がマヌケだったという話。

Absence Makes The Heart Grow Fungus

★★★★

ソロ名義としては4作目。内ジャケにJ.M.Wardらしき人物の写真が使われているが、参加メンバーのクレジット等は一切無い。調べてみたところを総合すると、レコーディングされたのはソロ・リリース1作目の"A Manual Dexterity"とほぼ同時期の01年。オマー、ジェレミーの他にセオドアとアイキー、それからゲストのサクソフォン奏者としてSara Christina Grossという女性が参加しているらしい。収められた楽曲の概ねは"Buffalo"や"Apocalypse〜"同様、カオテイックなブレイクやクリムゾンライクなダークな劇性を孕んだjazz/funk。TMV移行期に制作されたプロトタイプな楽曲とはいえ、トータルでの主張性を除けば、本家のそれらと比べても何ら遜色は無い。

フリーキーな構築&瓦解を怒涛の勢いで展開するOmar印のギター・ワークと、それに呼応するように咲き乱れる妖艶なサクソフォン、多彩なエフェクトと実験的なアプローチで躍り出る鍵盤が次々に突出し、生々しい熱情や無機質の強靭を打ち立てていく。一見グシャリとしているが、メインの旋律に乗せて各自が刺激的なソロ・パートを取っていく展開は非常にノリやすく、予測不能性に基づく衝撃と、全体を確実に高めていく構成が非常に相変わらず高い地点で結びついている。

未だハッキリとした骨格を感じさせなかった"Frances〜"期のTMVが好きであれば、間違いなく虜にされるインプロ模様。ほとんど存在を意識させないドラミングは、本当にセオドアなのかしら?と、そこは多少気になるのだが、内容的には従前作品と同等に刺激的な良作。

http://www.myspace.com/omarrodriguezlopezgroup

Old Money

★★★☆

ソロ名義としては6作目。いつもより気合いの入ったジャケが印象的で、加えて全10曲それぞれにプレイヤー・クレジットがふられている親切仕様。中でも特筆しておきたいのが、うち2曲にJon Theodore(dr.)の名前がある!ってところで、今じゃ貴重とも言えるセオドアの叩きっぷりが堪能できる今作は、それだけで個人的にゃかなり価値がある。

各所で「これまでになく本家TMVに近しい作品だ」とも言われている今作は、確かにAmputecture周辺の楽曲をインスト化したような、いわばOmarのエクスペリメンタル精神や、その過激なギターのみが突出する瞬間を控え目にしたバランスの取れた空間が印象的。ソロ名義の過去作中では"Buffalo"に最も近い。

個人的にオマー関係では"Apocalypse"みたく、フリーな空間で繰り広げられるオーガニックなジャム要素満載の展開に痺れるクチなので、TMVのインスト盤みたいな楽曲を供されてもあまり「特別感」は味わえなかったりする。まぁこの辺は好みの問題だけれども。セオドアが叩くTr.3"Population Council's Wet Dream"やTr.7"Family War Funding"はじめ、程よく練られ、独特の密塞感/奇天烈なプローチでブロウ・アウトする楽曲が並ぶ今作は、かなーり聴き易いのは確か。なんだけども、さすがにもう飽きてきた、というのも本音であったり、、、というか、いい加減Zach Hillとコラボったやつ聴かせてよー。

http://www.myspace.com/rodriguezlopezproductions

EL GRUPO NUEVO DE OMAR RODRIGUEZ LOPEZ/Cryptomnesia

★★★★

かねてよりその存在が公言されていた、HELLAのドラマー/Zach Hillとのコラボ作品がようやくのリリース。一応はオマーの「新プロジェクト」って位置づけらしく(そのプロジェクト名がCryptomnesiaなのかしら)、IkeyやAdrianの参加こそないものの、その実「ドラムがZachに変わったTHE MARS VOLTA」とも取れる構成/内容になっている。

ともあれ「カオス」って言葉がこの上なく似つかわしい滅裂した狂錯音がフルヴォリュームで雪崩れ込んでくる冒頭でニヤけるだろうよ。リズムの全く異なる無数の爆竹が炸裂し、だけども全体で一つの巨大なExplosionも描いちゃってるようなトンデモな音の複合体。一体どうやったらこんなの出来んだという、複雑怪奇にして異常な昂ぶりを引きずり出すアンサンブル。あたま2曲で狂ったグルーヴをしっかと見せつけ、おそらくはオマーのアタマが描いたであろうexperimentalなパルスが衝突し振り切れる中盤戦へ突入。作品ハイライトもこの辺で、とにかく異常な手数の音が音が音が応酬して弾ける。半ば本能的にくみ上げられる幾何学模様の、その稠密の度合いを高めるという意味でZachの千手観音ドラムは効果的なんだけども、逆に有機的なしなやかさを充満させる本来のTMV節との相性は微妙。全てにおいて「点」の昂揚を描いて響く楽曲は、だから通して聴くとややメリハリには欠けている。ま、贅沢だけどもね。Tr.10"Warren Dates"終盤ではさすがにザック・ヒルの鬼っぷりに感服。終始に渡って蹴躓き、つんのめり続けるようなリズムを堪能できる良盤です。

http://www.myspace.com/rodriguezlopezproductions

OMAR RODRIGUEZ LOPEZ/Mantra Hiroshima

★★★★

それこそチェックするたびに新譜がリリースされており、既に追っかけ切れなくなってきているオマー。こちらはソロ名義で18枚目となるスタジオアルバム。

ドラムにZach Hill、ベースにはJuan Aldereteを配したトリオ編成。明らかに手数よりもキックのほうが多いザックの馬鹿タフなドラミングを根幹に、マイナー・コードの破片を散りばめ、ときおりフッと和製のフレーズをしのばせるKeyフレーズが印象的。構築というよりはあきらかに瓦解の印象が強いインプロヴィゼーション。良くも悪くも、美術館でのインスタレーションを観ているような、ロックの単純快楽とは違った色彩の表現物。決して悪くはないんだけど、意味深なタイトル含め、かなり入れ込んだファン意外にはあまり届かないかもしれないアルバムの一つ。

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