THE FALL OF TROY/Doppelganger

★★★★☆

激情の音塊をクレバーに、プログレッシヴに速射するシカゴの3ピース、Fall Of Troyの2ndアルバム。マーズ・ヴォルタをも比較に挙げられるその演奏は、とにかく異常にテクニカル、ハイテンション。「巧い・速い・熱い」なんていう飯屋の看板のような形容が当たり前のように飛び出る超絶な展開・転回に捻じ伏せられ、完膚なきまでに叩きのめされるこの快感。

強烈な情感迸るメロディと、突き刺すシャウトの飴と鞭。散り散りに振り乱れる高速のギターカッティング/マシーンの如く精緻な乱打で弾け飛ぶドラミング/空間を果てなく掘削し続けるベースの3者によるグルーヴが、まさしく怒涛の態で激烈に、渦巻く逆巻く牙を剥く。そしてその空間を鮮烈に切り刻むアグレッシヴかつタイトなシャウトに悶絶。最高。めちゃくちゃカッコイイ。

もはやジャンル分けは不可能。というか意味なし。超が付くほどユニークにして過剰なその音塊を、何らのエグミを感じさせずスマートに聴かせきってしまうその才能。惚れました。ベタ惚れです。オススメです。

http://www.myspace.com/thefalloftroy

S.T

★★★★☆

本製品はワシントン州に住む3人のティーンエイジャーによって開発され、2003年にLujoレコード社から発売されました。同種の製品を好む一部マニアの間で話題になったものの、少ロットによる試験的な販売であったため多くの目に触れることはなく、その後現在に至るまでストック切れとなっていましたが、のちにこの3人による第2の生産物"Doppelganger"(2005年)が広く世に好評を博したこともあり、この度同社から再発されることとなりました。

【タテの作用】
斧というよりは鉈のような、中量級の鋭い音が狂い咲き、貴方の首から頭にかけての部位を激しく上下させるでしょう。小刻みな律動から一瞬の小休止ののち、爆発的な熱量をもって噛み付くようにスピーカーから飛び出るシャウトの連続に、何時いかなる場合も総身を突き動かされずにはいられないでしょう。


【ヨコの作用】
往々にして蒼く、時として胸を焼き焦がすような感傷を孕んだメロディが、一片の澱みなく流麗に溢れ出します。迸る情感の昂揚効果は凄まじく、貴方の感覚神経に大きな揺さぶりをかけ、底知れぬ恍惚感でもってブラッシュアップするでしょう。特にTr.3"The Circus That Has Brought Us Back To These Nights"における「One More Fucking Day!」の衝動的な絶叫には、全身の毛穴が開くような快感を覚えるでしょう。

【統合作用】
第2の生産物"Doppelganger"と比べ、より放埓な印象で繰り広げられるギターのインプロヴィゼーションに身をクネラセテいると、次の瞬間には極太のベースリフに総身を張り倒されます。タテの暴力とヨコの揺れが複雑に、攻撃的に絡み合い、怒涛のグルーヴを形成します。その円弧の中では「この上なく必然的に」シャウトが立ち現れ、円弧の中で揺らめく貴方に刺激を与えるべく、耳朶を通じて烈火の様相で突き刺さります。この予測不能な、しかして強烈な快楽を生み出す相乗作用は非常に中毒的です。

【補足】
本作には第2の生産物"Doppelganger"にも収録されている楽曲が、バージョン違いで4曲収録されています。したがって全体の評価としては☆一つ分下げて記載していますが、第2の生産物"Doppelganger"には無い、ティーンならではの衝動を随所に孕んだ素晴らしい製品であると思われます。とりわけ終曲"What Sound Does a Mastodon Make? "でのプログレッシヴな展開、怪しげな彩色、そして全てをデストロイするような熱い音塊の連続放射を目の当たりにする7分12秒といったら・・・このためだけに買っても損はしないと言ってしまいたくなるような(いや、私は言ってしまいます)凄まじい楽曲です。なお、3人は来る2007年の発売に向け、第3の生産物の開発に取り掛かっているようです。

http://www.myspace.com/thefalloftroy

Manipulator

★★★★

2年弱のスパンで届けられた3rdアルバム。今作ではNouela Johnstonなる人物がキーボード奏者として(一時的に?)加入し、4人体制となっている。

前作"Doppelganger"が、『プログレの構築美へハードコアの激情を絡めつける』とでも言うべく、互いに相反する要素を巧みに『融合』させた作品だとすれば、今作は全くその真逆を行っている。バラっバラのピースを意図的に激突させ、そこに生じる出鱈目な(そして激烈な)反応を楽しむように、次から次へと異常なテンションで継ぎ接ぎされていく楽曲群。そこから放出されるのは、強烈な(そしてどう見ても確信犯的な)『違和感』。

プログレッシブでありヘヴィロックでもデスメタルでもあり、また一方でカオティックな狂騒を演じつつメロディアスに場を揺らしもする音のピースは、ものの見事にどれもが全く手を取り合おうとしない。ひたすらにブツかり激突しつつ展開(というか転回)する様は、ワラケルほどにグッチャグチャ。

変拍子とか転調といった域を完全に超え、もはや全く別モノの組成の音因子が、非常に短いサイクルでクルクルと入れ替わり立ち上がっては強烈なインパクトの残像を残し、流れ、消滅していく。

え?Weezer!?と思うようなセンチなメロ/歌詞を、ドシャリと拡散するディストーションに乗せて謳うTr.6"Oh, The Casino!"、シンプルなギター・サウンドに合わせてしっとりとした憂いを放つTr.11"Caught Up"といった意外な表情をチラつかせつつ、しかし基本カオス満開でアルバムは驀進。作品中盤から後半へと進むにつれ、ヘヴィネスを増したメタリック・リフの暴虐っぷりが非常に劇的にキマり始め、炸裂する音の刺激性はどんどんどんどんと昂まっていくよう。

時にLed Zeppelinの硬式飛行船がBlack Sabbathのトレーラーと正面衝突して大破するような、非常識的でトンデモな音が連続して創造されていく瞬間には、もう笑うしかない。実はまだ全然この音を消化しきれていないのだが、聴く度にこのカオティックな狂騒の渦へ、ズブズブズブとハマリ込んでいっている自分を確かに感じる。とりあえず、1度聴いてみたらどうかと。ちなみに、初回限定版にはライブCDが付属しています。

Phantom On The Horizon

★★★★

04年リリースの自主制作盤"Ghostship EP"を再構成して収録した変則盤。詳しく補足しておくと、Ghostshipに収録されていた4曲のうち"Macaulay McCulkin"は2ndアルバム"Doppelganger"に入っており、今作では残る3曲("I","IV","V")を再録し、新たに"U","V"を加えたコンセプトアルバムとなっている(※Vはおそらく今作が初出)。ちなみに本作、07年11月に脱退したTim Wardに代わり、Frank Black(Vo./B)が加入以降初めての音源でもある。

余りにも目くるめく楽曲に当初は「こりゃダメだ」と感じたのだが、大枠を掴むとガラリ印象が変わってくるのが最近のFOT。"ChapterT"はハッキリ言って暴挙に近い無茶っぷりで、何せダークな深淵からゴシックな怪物をノタリと起こして侍らせる導入〜お得意のイッちゃってるプログレ・カオス・メタルの断片を脈絡なく投げつけ続ける分裂症度全開の10分超で、これを1曲として聴けッ!と言われても無理っ!と返したくなる。が、いきなりのトップギアにてギャン!ギャン!とわめき出す"U"から形勢一変、キメ!キメ!キメ!の変体ミルフィーユ構造で煽り立てる高速蠕動のアンサンブルが、ド直情的に働き回るサマに突沸。青臭さモロ出しのクリーン・ヴォイスから、アギャーッ!!!と絶叫が迸る"V"では、疾走パートからほとんど騙し打ちのようにウルトラ・ヘヴィな爆撃を浴びせられ、マダマダマダァっと滾り立つ"W"でThomas Erakのクリーン・エモとFrank Blackの絶叫が並列して激突走破、ダークな主旋律が印象的な"X"のデカダンスへと雪崩れ込んでいく。ラストを飾るこの楽曲はマジで格好良い。穏やかな欝と狂った破滅衝動のクロス・オーヴァー。プログレッシヴ・カオスの暗黒波状に呪殺さるる。

音速の奇怪で絡めとり、およそ他と交わらないマッシヴな巨岩壁へと激突させる異文化交流HC。オリジナルver.と比べてメロディックなエモが出過ぎているパートはあんまり好きでないが、前作"Manipulator"の出鱈目な強引さが巧みに消化された感のする楽曲は、素直な燃焼性があって非常にイイ。所々でTMVを引き合いに出されることも多いバンドだが、そういうドラマチックな側面は今んとこあんまり巧くハマっていない気がする。とりあえず、一回日本来てよ!って思うのだがどうだろう。誰か呼んでくれませんか?

http://www.myspace.com/thefalloftroy