SIGUR ROS@難波Hatch

拡がり注ぐ音像に包み込まれ、無限に解放される精神性・・・
05年のフジロックに次ぎ4度目、個人的には01年のクアトロ以来2度目となるシガー・ロスの来日公演。会場の難波Hatchへ着くと、開演を待つたくさんの人の姿が目に飛び込んできた。整理番号一桁だったため、最前列・真正面に立ち位置を取る。正方形に近いステージの深部に配された数多の機材が、青くほの白い照明に浮かび上がり佇んでいる。

午後7時。静かに沸き起こる拍手とともに、柔らかな闇が支配するステージへAMINAの4人が現れる。シガー・ロスのライブではストリングス・パートを担う、「女の子」といった表現がピッタリくるような可愛らしいメンバーだ。静謐に満ちた空間の中、透き通った、それでいて柔らかな色彩の粒がミニマルに反復し、ふわりふわりと宙を舞う。弦楽、鍵盤、金管楽器からシンギング・ソーまで、チャイミーな音が軽やかに錯綜する様は、幻想的というより牧歌的。優しい音の妖精が、静かに浮遊し舞い来たり、聴き手の心に昂揚を、頬に微笑を降り積もらせる。完璧に塗り替えられた空間を残し、ステージはカーテンで覆われた。

そして午後8時。その絹の衣を前景に、地底の唸りのようなデイストーションとともにシガー・ロスの演奏が立ち上がった。オープニングは"Takk..."〜"Glosoli"。スクリーンとなったカーテンに、その背後で律動するメンバーのシルエットが様々な角度から映し出されていく。爆雷のように轟くベース、ひしゃげた音塊のドラムが炸裂し、ジョンジーの長身が操る弓のしなりから紡がれる轟音により、完璧にここ、難波ハッチの空間が刷新される。ゆっくりと取り除かれるカーテン。高まる期待を確信へと変えたオーディエンスが打ち鳴らす割れんばかりの拍手の眼前へ、メンバーがその姿を現した。深い空間を擁するステージ後方にジョンジーの巨大なシルエットを投影し、底知れぬメランコリーの深淵へとフロアを誘った"Ny Vatteri"、悲しいまでに美しい旋律が高みで振り切れる"Gong"、そして本当に大好きな"Olsen Olsen"へ。牧歌的なベースラインが反復し、どうしようもなく感情を揺さぶるあの声が舞い、種々のストリングス・鍵盤器楽が神々しく螺旋を描き昇華、脳内で陽性に、純白に弾け飛ぶこの楽曲で完全に昇天。さらに円弧を描いて昇りつめる鍵盤楽器と力強く胎動するドラミングのアンサンブルにトドメを刺された"Hoppipolla"へと続き、1つの大きなハイライトが描き出される。車座になって音を紡ぐ4人の姿に、クアトロの小さなステージで寄り添うように演奏していた光景が脳裏に蘇った"Heysatan"により本編は終了。そして壮絶なアンコールへ。今宵、最後の最後に演奏された"Popplagid"。豊潤に蕩揺いながら、次第に大きなウネリを持って会場に充満する音と共に、再びカーテンに覆い隠されるステージ上。ジョンジーの影が幽鬼の如く浮かび上がり、漆黒の螺旋紋様を成した音が這い上がる。そして轟音。絶対的な音塊の嵐。全方位から降り注ぐ呵責なき音像の洪水が、凄絶に美しく轟き渡り、会場を埋め尽くした。

鳴り止まぬ拍手に三度ステージに現れ、深々とお辞儀を繰り返した8人の姿。はにかむような表情のジョンジーは、ただただ手を叩くことで必死に謝意を伝えようとするオーディエンスの想いを汲み取るかのように目に映る。Sigur Rosの音楽が他のどのアーティストよりも優れている、とは言わない。ただただもう世界が違う。様々な器官に大きな揺さぶりをかけられた、本当に美しく、素晴らしいライブだった。

-set list-
01.Takk...
02.Glosoli
03.Ny Batteri
034.Saeglopur
05.Njosnavelin
06.E-bow
07.Gong
08.Andvari
09.Olsen Olsen
10.Hoppipolla
11.Med Blodnasir
12.Vidrar Vel Til Loftarasa
13.Svo Hljott
14.Heysatan
15.Popplagid

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