SIGUR ROS/Agaetis Byrjun

★★★★☆

アイスランドの雄、Sigur Rosのあまりにも有名な2ndアルバム。未だかつて聴いたことがないような、唯一無二の音世界が繰り広げられている素晴らしい作品。Tr.2からギターをバイオリンの弓で弾く独特の奏法が登場します。アイスランドと造語で歌われる歌詞は全く分からないけれど、それが返って歌詞だけに意識が囚われずに、彼らの音世界全体に深く浸れるという結果にもつながっているような気もします。

ゆったりとラインを爪弾くベース、ストリングス、その背後で吹き荒れるブリザードのようなギターの音色、そしてものすごいα波を放出していそうなジョンジーの圧倒的な存在感を持った声と、全ての音がアイスランドの荒涼とした原風景を思わせるような壮大で神秘的な世界を創り上げています。

Tr.7"Viorarar Vel Til Loftarasa"における怒涛のクライマックスや、Tr.8"Olsen Olsen"で目の前にパーッと光が広がるように音が満ち溢れる瞬間には何物にも買えがたい至福の恍惚感を感じます。非の打ち所のない完璧な作品。

Takk...

★★★★

 力強く、たおやかに、包み込み、解き放つ。そんな形容の断片が浮かんでは消えた、Sigur Rosの4作目。Tr.2"Glosoli"、バイオリンの弓により紡ぎ出される雄大なエレクトリックギターの成層圏、明滅するチャイム、力強く胎動するリズム隊、そしてそこに溶け合いながらも決して埋没することのないヨンシーの声。終盤にかけてゆっくりと登りつめる美しいアンサンブルを、驚異的な量感を伴ったディストーションギターのひしゃげた音塊が、空間を押し潰すように吹き荒れる。続くTr.3"Hoppipolla"は、美しい旋律を奏でるピアノライン、眩い光降り注ぐ高みへと向かうストリングス、華々しく咆哮をあげるホーンが一体となり、虚空へと染み入るように拡散する、素晴らしい解放感を持たらすナンバー。

 前作と対極に位置する作品だ、と言ってもあながち間違いではないだろう。ただ、単純に「歓喜」とか「祝祭」という言葉で片付けることのできるアルバムでもない。ヨンシーの歌声は憂鬱で悲しく、そして優しい。悲しみの基盤の上に様々な感情が入り混じって響く彼の歌と同じく、Sigur Rosの楽曲はありとあらゆる感情を内包し、聴くものを粟立たせ、茫洋とした興奮と感動に包むこみ、そして時に底辺へと叩き落す深さを持っている。今作でもその独特の音の深みは何ら変わらない。ただ、終盤で牧歌的なメロディが溢れ出るTr.5"Se Lest"、重厚なメロディを叩きつけるピアノを基盤としながら、バンドサウンドが螺旋を描きながらダイナミックに爆発するTr.6"Saeglopur"、量感を伴った情感が揺蕩いながら炸裂し、眩い光源へと収束するTr.7"Milano"など、前作にはなかったポジティブな感情を強く、強く感じることができる作品であることは間違いない。どこまでも美しく、圧倒的な昂揚感に満ちた素晴らしい作品。

Med Sud I Eyrum Vid Spilum Endalaust

★★★★

降りてきた
それは例えていうなら天使である

アイスランドの天上人/Sigur Rosによる5thアルバム。さながら天界で打ち鳴らされる全能の音楽を聴くような、圧倒的な昂揚感に満ちていた前作"Takk..."。比べて今作は、その天界から降りて来た天使の遊びを目の当たりにするような、美しく非現実的ながらもどこか近しい感情を擽るサウンドが展開されている。

キラキラと軽やかに、有機的な音因子が弾けるオープニング・トラックは、さながらAnimal Collectiveのようなフリー・フォーク。打ち震えるストリングス/チャーミングな各種器楽の音色がこれまでになく強く前面に立ち現れ、Sigur Ros独自の世界へと無邪気にじゃれついていく。階段を駆け上がるようにブラスセクションが上昇するTr.4"Vid Spilum Endalaust"は、GY!BEの"storm"を思わせる華やかなインパクト。アイスランド語と造語(ホープランド語)を交えて幻想的に蕩揺たう前半部から、高速のマーチング・ドラムに乗って高らかに舞い上がる後半部へと展開する10分間の"Festival"で大きなクライマックスを描く。アルバムはそこから一気に静謐さを増し、リリカルなピアノ・フレーズやアコースティックな器楽群、それと睦み合うヨンシーの美声を中心に、時折オーケストラルな彩りを添えつつ終着点へと緩やかに落ちていく。

サウンド・プロダクションとしてはこれまでになく大胆に変化を取り入れているはずなのに、トータル感覚的には前作・前々作にあったようなドラスティックな転換要素を感じなかったのが不思議といえば不思議。他に比べるものの無い独自の世界の中で、無理なく変化していくバンドの姿がハッキリと見える。10月の来日が今から楽しみ。

http://www.myspace.com/sigurros

JONSI/Go

★★★★

Sigur Rosのフロントマン/Jonsi初のソロ・アルバム。様々な重み/くび木から良い具合に解き放たれて聴こえる、全9トラックの美しいポップ・ミュージック。キラキラと舞う色彩の妖精を引き連れて、華やぐ高みへと一挙駆け上っていく冒頭"Go Do"、"Animal Arithmetic"。その突き抜けた高揚感にまずヤラれるが、そんなアッパーな面を除いてもなお余りある、楽曲の「生命力」とでも言うべき力強さに圧倒される。今作で初めて用いられ、楽曲の大半を占めている英詞も同様。歩み寄るための橋が渡されたことで、あらためてその声が、唄が持つ圧倒的なスケールを体感。バンド本体の流れを汲みながら、ここまで「個」としてのキラめきを結晶できるソロ・アルバムって滅多にないかも。素晴らしい。

http://www.myspace.com/jonthorbirgisson



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