SAXON SHORE/The Exquisite Death Of Saxon Shore

★★★★☆

 ペンシルヴァニアの5人組、Saxon Shoreの3rd。とにもかくにもこのメロディセンス!全編を通じ、大胆かつ繊細に琴線涙腺を刺激する豊かな情感の音因子は「素晴らしい」の一言。

 脳裏に柔らかな光を射し込むキーボードの旋律が、眩暈を起こしそうに美しいフィードバックノイズとともにクレシェンドし、凄まじい量感のひしゃげたディストーションギターとともに空間に満ち満ちていくTr.4"Silence Lends a Face to the Soul"、力強く胎動するピアノラインと一抹のエレクトロニカが織り成す潮騒、歓喜の光源を形成するハイハットにより昇りつめた先で、往年のヘヴィロックバンドを思わせる豪快なリフが轟く"Isolated by the Secrets of Your Fellow Men"、そして今そこで鳴っている楽器、その全てが心の琴線を鷲掴みにする"How We Conquered the Western World on Horseback"での圧倒的なノスタルジア、、、

 プロデューサーは音の魔術師、David Fridman。繊細なインストゥルメンタルの感触はそのままに、眩く光り輝く音が力強く吹き荒れる独自の音世界はやはり最高。アクセシビリティが物凄く高いこの作品、普段よく見させてもらっている音楽サイトのいくつかでかなり低い評価がされていたのは、たぶん「ポストロック」として捉えているから!?新しいことは何もしていないけれど、こんなにも人を奮わせるメロディ・構成を伴った楽曲群に、個人的には歓喜しました。お薦めの作品です。

It Doesn't Matter

★★★☆

3年半ぶりの4thフルアルバム。プロデューサーは前作に引き続き「音の魔術師」デイヴ・フリッドマン。不純の欠片すら見当たらない純白のメロディと、ときに驚異的ですらある爆音クレシェンドが交合するインストゥルメンタル・サウンド。

前作以上に、散りばめられる微細音や空間を白銀で塗り潰すような轟音の壮麗さは強度を増しており、そこに3年半という歳月が施した精錬の跡も見える。甘やかな沈鬱が降り注ぎ、やがて圧倒的な轟音に呑まれていくTr.1"Nothing Changes"、郷愁を刺激して止まない鍵盤のフレーズが、このバンド特有の乳白色の昂揚を描くTr.2"Thanks For Being Away"あたりはかなり好印象。前作で確立した感傷的な轟音世界を、より精緻で深みの増した音場で繰り広げて聴こえる。

ただ残念ながらトータルで見ると、個人的に今作の内容は前作以降一気に膨れ上がった巨大な期待感を満たすには及ばず。Caroline嬢(Temporary Residenceからソロアルバムをリリースしている)のVo.を取り込んだTr.4"This Place"、チャイミーなエレクトロニカを散りばめ、軽やかな躍動感を描く"Sustained Combustion"、"Bar Clearing Good Times"などは、悪くはないけれども至って平均的。SAXON SHOREならでは!と思わせるあのオリジナルな音場は消えてしまっている。それこそPL花火大会のように、華麗で激烈なエモーションを立て続けに炸裂して魅せた前作と比べると、今作では良くも悪くも静謐な佇まいそのものの印象が勝る。轟音に轟音を重ねながら遷ろってゆく展開そのものの旨味は控え目で、むしろ「それ自体」が美麗な音の積層が、ゆっくりと滑らかに一つのヴィジョンを描き出していく過程に浸るような楽曲がメイン。拓かれるサウンドスケープは限りなく美しい、、、だけどもその接触はきわめて間接的に終始する・・・そんな、ある意味こちらが期待していたのとは少し違った方向へ向いている感じも。ただし、ライブではその轟音部が遙かに増幅することは既に経験済みなので、7月に決定したsgt.とのカップリングツアーには是非とも行きたいところ。

http://www.myspace.com/saxonshore