RADIOHEAD/Pablo Honey

★★★★

93年リリースの1st。のちの傑作群と並べ比べるなら、なるほど粗い。が、その粗さが純粋な荒々しさとなって「刺さる」瞬間が多々存在する。エモーショナルという形容を飛び越えて、時として扇情的でさえあるトム・ヨークのボーカルは非常にスリリングで美しく、抑えが効かぬかのように激情の音塊を放出するジョニー・グリーンウッドのギターと相まって、自己破壊さえ招きかねない危うくも気高い美意識に満ちたサウンドを創造していく。トータルとして見ればさすがに一本調子な感は否めないが、「感情」を司る器官を素手で掻き毟るかのようにギターがかき鳴らされる名曲"Creep"や、憧憬の音粒子が螺旋を描きながら上昇し、エモーションの大きな昂ぶりと共にフィードバックの激流に飲み込まれていく"Stop Whispering"など、凡百のギターロックバンドとはやはり次元を異にする激烈な音が提示されている良作。

Bends

★★★★★

95年リリースの2nd。UKギターロックを語る上で絶対に欠かすことのできない傑作アルバム。格段に深みを増して鳴り渡る音因子、大胆にして緻密な構成。怒り嘆き憂い悲しみ、時に祈りにも似た神々しさを伴って炸裂するギターワークとトム・ヨークのファルセット。初秋の夜空を独り見上げるかのような、胸をキツク締めつけるセンチメンタリズムに襲われる"High And Dry"、"Black Star"をはじめ、ここで鳴らされる澄み切った激情の奔流はあまりにも美しく、脆い。不安や焦燥、憂鬱といった感情を孕みながらも、人生を肯定する力強さをもって響く楽曲群。素晴らしいです。

OK.Computer

★★★★★

97年リリースの3rd。にして音楽史に深い痕跡をもって刻み込まれた怪物アルバム。完璧に統制されたディストーションギターが鳴り渡るオープニングトラック"Airbag"から、まさしく一部の隙も無く構築された音により、無二の世界が創造されていく。メランコリーの度合いを深めたメロディと電子音の細かなパルス、サンプリング、峻烈なアコギから破壊的なディストーションギター、それらが圧倒的な存在感を放つトム・ヨークの声のもと結びつき、収斂・拡散しながらプログレッシブに展開していく。驚くべきは、その機械の如く精緻な構成にも関わらず、そこから滲み出るエモーションが前作以上の昂ぶりをもって響くこと。Tr.5"Let Down"や"No Surprises"における美しさは、最早荘厳ともいえる。無機的な構築物から溢れ出る、混沌とした有機物のカタマリ。非の打ち処のない傑作。

Kid A

★★★★★

00年リリースの4th。誰も想像だにしなかった大きな転換を見せた作品。ここでは3本のギターはほとんど鳴りを潜め、代わって無機質な電子音が空間を跳梁する。幻想的なシンセサイザーのループにより、深層から身体を揺さぶる"Everything In Its Right Place"、極太のベースラインの反復と邪悪な喧騒を醸造するサンプリングが絡み合い、破壊衝動にも似た感情を喚起する"The National Anthem"、次作への片鱗を見せる"Optimistic"、そして狂ったヘヴィな音塊が輪舞する"Idioteque"など、これまでで最も「壊れてしまった人間の心」を感じさせられる作品。

Amnesiac

★★★★☆

01年リリースの5th。前作と同時期にレコーディングされた楽曲により構成された、Kid Aの双生児的作品。しかしながらその音の質感はあまりに前作と対照的。Kid Aが虚無的な宇宙において響く音だとすれば、今作は春の澱みに沈む音。暗さの中に不可思議な温もりが感じ取れ、それが非常に心地良い。ピアノを始めとするストリングスが、気怠げなトムのボーカルと絡み合いながら相互の深みを際立たせる"Pyramid Song"、"No Surprises"を憂鬱の影で塗り潰したような"You And Whose Army?"、ジャジーに煙るアダルトな雰囲気の終曲"Life In A Glasshouse"など、とどまることを知らず新たな表情を剥き出していく、バンドの底知れぬポテンシャルをまざまざと見せつけられた秀作。

Hail To The Thief

★★★★





In Rainbows

★★★★

4年ぶりに出た7thアルバム。自分の中では既にもう「あーだこーだ」と語る必要の無い位置に居るバンドですが、前作"Hail To The Thief"は、作品中で唯一「ただ緊張感が抜けただけ」の面白みの薄い中身、という印象を感じたりもしていた。

そういった意味では今作からも、Amnesiacへ至る一連でのような、良質な燃料源としての「気負い」みたいなものは感じられないし、サウンド自体からハッキリ感じ取れるような思惑も無い。なんだけど、前作と違ってどの楽曲もかなり魅力的に響くのはこれ如何に?

影を孕んだメランコリックなメロディに、人造的な温かみをモディファイされたインストゥルメンタルが絡みつくオープニングの"15 Step"やTr.9"Jigsaw Falling into Place"。狂ったように乱反射するトム・ヨークの声により起爆する滑らかな展開は、OK Computer期のソレを思わせる。"Videotape"での気怠く、心地の良い澱みは"Amnesiac"だし、最果てで鳴る冷たい旋律が空間を磨き上げる"Reckoner"は"Kid A"の頃を思わせる。

次に何をしてくるかワカランという革新性が、Radioheadの魅力の1つであったのは確か。その点、これまで以上のナニカが盛り込まれているわけでない今作は駄目じゃ!って考えもあるかもしれんが、既にして他のナニモノでもない世界を創り上げているバンドが、全10曲39分強を聴かせ切る作品を出して来た、ってことだけで個人的には十二分。ついでに、音以外の部分での話題性が抜群だったこのアルバム。私はタダで落としておきながら、その後デスクトップに長らく放置。結局後日リリースされたCDを買ってようやく聴いた。何に限らず"無料"ってのは確かに魅力的なんだけど、こと音楽に関しては、タダで落としたデータには何故かあまりソソラレナイ、という自分の性癖を再認識した一連のリリース模様でもあった。うーん、、、するとナンだ、CDを買うという行為(そして物理的にモノが増えていくという事象)にこそ、ワタシハ快楽ヲ覚エテイルノデショウカ・・・ね?



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