PELICAN/Australasia

★★★★☆

"ISIS without vocal"とも評されていたChicagoの4人組インストゥルメンタル・メタルロックバンドの1st。1曲目の"Night End Day"からもう重い重い。ゴツゴツとした重厚なギターリフが怒涛のごとく押し寄せてくる。このトラックの前半5分における展開やTr.3などは、いくぶん手垢のついた感のあるギターリフが織り成す古典的とも言えるへヴィロックサウンドに、正直若干の古臭さや息苦しさを感じてしまう。

しかしながらわずか3分間の狂想曲 "gw" では、重厚なへヴィリフの壁の向こう側から、非常にメロディアスなメジャーコードを奏でるギターサウンドが洩れ出し、意外にもMy Vitriol辺りのUKギターロック好きにもアピールできそうだし、続くTr.5では、東洋的な響きを見せる澄んだアコギの音色とsinging saw(Mercury Revが使っていることでも有名なノコギリ状の楽器)が奏でるメロウな空間が、最近のMogwaiにも通じる美しい音世界を作り出している。

そしてアルバム中で図抜けて良いのがTr.2"Drought"。細かな転調や小休止を挟みながら徐々に加速していく展開がダイナミックかつスリリングで素晴らしい。これだけ激しいサウンドを鳴らしながらもただ感情的にわめき散らすのではなく、しっかりとそれをコントロールする理知的な構築力に裏付けされたこういった曲が増えれば、かなり凄いバンドになりそう。

The Fire In Our Throats Will Beckon The Thaw

★★★★☆

 シカゴのインスト・へヴィロックバンド、Pelicanの2ndアルバム。前作"Australasia"で発露した独創性は一層の深みを増し、圧倒的な力で描き殴られる広大な音世界に叩きのめされる。

 オープニングトラック"Last Day Of Winter"、雄大にたゆたう重厚なヘヴィ・リフは、やがて迫り来る轟音の濁流と化し、全てを飲み込み、薙ぎ倒す。一転、心地良い気だるさと戯れる、メロウなクリアギターと共に幕を開ける"Autumn into Summer"は、その眩いフレーズが大きな螺旋を描きながら上昇し、やがて美しいディストーションギターの旋風となって吹き荒れる。否応なく身体に作用するド級のへヴィ・リフと、激しくスネアを打ち鳴らすドラミングが次第に過熱し、渾然一体となって昇華するこの楽曲により高まった期待、それを確信へと導くのが、先行EPともなった"March into The Sea"。荒れ狂う漆黒の大海を想起させる、絶対的な力を持った重厚なリフ、それが完璧に計算されつくした緻密な構成の檻の中、暴れ、のたうち、空を舞う。中盤で姿を現すダイナミックかつメロディアスなギターリフに悶絶している暇もなく一気に加速、畳み掛けてくる怒涛の展開、とどめとばかりに3重、4重に厚みを増す轟音の終局は、呆れるぐらいにカッコ良い。頭を振り振り、口あんぐり。

 母なる大地が放つ膨大なエネルギーを具象化したような音像群は、どれも驚異的なスケールを誇る。ただ激しいだけ、美しいだけ、優しいだけでは到底辿り着けないレベルに達している。全てを委ねてしまいたくなるような強さと大きさを併せ持った素晴らしい作品。ちょっとでも気になった人は是非とも↓で試聴してみてください。来日公演は絶対行くぞ〜(monoは要らんが、、、)

City Of Echoes

★★★★

インストゥルメンタル・メタルという、独自のポジションを確立した感のあるシカゴの4ピース/Pelicanの3rd。

パワフルなドラミング/重量感溢れるベースラインを中央に、その左右からメタリックなツイン・ギターが鈍い煌めきを携えた豪快な音の濁流を放出する。デビュー作"Australasia"での密塞感の高い重低爆音と、2ndアルバム"Fire In Our Throats〜"で描いた広大なスケール/タフネスを上手く折衷したような今作。その音のスタンスはこれまでと全く変わらず、滅法ヘヴィでストレートな煽情性に満ち充ちた音の鳴りっぷりは、やはりメチャクチャ気持ち良い。

ヘヴィ・ロックやメタルの刺激的なファクターを、本来ならその背後に在るはずの負の感情とは切り離し、音の衝撃/破壊力だけをそこから巧みに取り込んだようなサウンドは、それらが壮大で開放的な(そして絶妙な憂いを孕んだ)メロディと融合することで、抜群にパワフルでストレートな、ほとんど爽快とも言える昂揚感を叩き出していく。こうした健康優良児的なサウンドが、日本のみならず本国アメリカでも受けているというのは、何だか少し意外な感じもする。

全8曲/42分と、過去2作と比べかなりタイトな展開を見せる今作。都会の喧騒を呑み込みながら、摩天楼を駆ける烈風の如き音の多重奏が吹き荒れるタイトルトラック"City Of Echoes "、ヘヴィ・メタルの様式美/暴力的な昂揚感を全面に打ち出した"Dead Between The Walls "、春の澱みに蕩揺たうノスタルジックな濁音が、次第に巨大な円弧を描き立ち上がるラストトラック"Delicate Sense Of Balance "に到るまで、かなり高次のラインでの大きな昂揚が描き出されていく。サウンド・スタイルに目立った変化が無い分、かつてほどの衝撃こそ無いものの、作品の完成度においては、前作同様に非常に高いものを感じる。なお、日本盤は40分強のライブが収録されたボーナスDVDが付属する仕様となっています。

Ephemeral

★★★★☆

3トラック/20分超を閉じ込めた新作EP。さながら大地との共鳴を思わせる巨大なスケールの轟音により、琴線を根底から揺さぶるような叙情を物語る独特のインストゥルメンタル。既に界隈では確固たる地位を築いた感もあるバンドながら、本作で炸裂するは、意外にもその初期頃を思わせるヘヴィでダークなリフに寄りかかった轟音。

俄かに黒雲のような不穏が拡がるTr.1"Embedding The Moss"。裂け間から鉛色の煌きを覗かせながらゴロゴロと転がり続けるリズム・セクションと、削岩機のようなヘヴィ・リフが轟然とぶつかり合い巨大なウネリを成していく。続く"Ephemeral"でも、裏側から抉り込み暗い昂揚を引きずり出すマイナー・コードの一撃と、荒々しいリズムで全景を的確に進行するリズム隊が巨大なグルーヴの隆起を描く。激しいリフ/リズムの雨滴に打たれるままに、気づけば轟音の嵐の只中に飛び込んでいるような展開は、個人的に大好きな"Drought"に通じる荒々しい牽引力が炸裂して感じられ、大変良い。続いて収められた"Geometry Of Murder"はEARTHのカヴァー。おどろおどろしく妖しくも魅力的なヘヴィネスを忠実に再現しつつも、そこにPELICAN特有のオリエンタルな艶めきが加わっており、これまた大変、素晴らしい。時間的な制約が逆にコンセプトの明確化と凝縮に繋がるEPの評価って往々にして高くなりがちなんだけど、本作もまた、非常に精度の高い好盤になっている。

http://www.myspace.com/pelican