MUSE/Showbiz

★★★★★

英国南西部・デヴォン出身の3人が奏で上げる、繊細にして激烈で、そしてこの上なく耽美な空気を孕んだデビューアルバム。

怪しげなピアノの旋律溢れ出すオープニングトラック"Sunburn"。幽玄の気配をまとって地を這う憂鬱のメロディは、やがて迸る激情のギターとともに峻烈に空間を焼き焦がす。緩急/静動のカタルシスを幾数回にも渡って演じるtr.3"Fillip"、メタリックなギターテクスチャに挟み込まれるロマンチシズム、そしてマシュー・ベラミーの圧倒的なボーカリゼーションが織り成す劇場型叙情絵巻"Cave""Showbiz"、極限まで研ぎ澄まされたセンチメンタリズムが胸を鷲掴む"Unintended"、そして英国ギターロックを極端にデフォルメし、得体のしれぬオブジェクトとともにビルドアップされた音塊がドラマティックに吹き荒れる名曲"Muscle Museum"。

MUSEの前にMUSE無く、MUSEの後ろにまたMUSE無し、と言い切ってしまえる何とも特異な、そして相当に高い完成度を誇るデビュー作。この超絶に耽美な世界観には、ただただもうひれ伏すのみ。素晴らしい。

MUSE/Origin Of Symmetry

★★★★★

現在のUKシーンにおいて最も異彩を放ち、絶対に真似のできない独自の世界を築いているバンドといえば、間違いなくこのMUSEだろう。デビューの時点で既に特異な存在感を濃厚に放っていた彼らは、01年リリースの今作にて完全に別の地平へと遷移した。

一言で言うなら「過剰」。爪弾かれる妖艶なピアノの旋律へ、地鳴りの如く襲い掛かるへヴィ・メタリックなギターが轟く"New Born"からして、何だかもう分けの分からないド派手さ。ギター・ベース・ドラムというシンプルな3ピースから成り立っているなどとは到底信じがたいようなドラマティックな音の洪水。何とも言えぬ憂いを背後に従えながら、叙情の奔流を横溢させていくその様は、さながらロシア古典派の協奏曲のようである。そしてこうした過剰なメロディや、時としてほとんどへヴィ・メタル然とした激しいインストゥルメンタル群の狂騒を、全くクドさを感じさせずに纏めあげてしまうマシュー・ベラミーの声の素晴らしいこと。

叙情、耽美、ブルース、へヴィ・メタリック、クラシック、そうした全てを飲み込んで奏であげられる途轍もないロック・オペラ。異常に濃い中身の詰まった、名盤である。

MUSE/Absolution

★★★★☆

04年リリースの3rd。もはや何者にも追尾不能な世界観を打ちたてる3人組。前作において自らに科していた音の制約を取り払い、荘厳の域にまで楽曲レベルを押し上げた快作。

激情的でありながら繊細で、美しいメランコリーを含んだ楽曲群は、単体としても全体としても遥かにその深みを増している。シンセサイザーがもたらす昂揚を大胆に取り入れながら、終盤でラフマニノフのピアノ・コンチェルトばりの浪漫世界へと移行していく"Butterfly And Hurricanes"、過去最強のメタリックギターが咲き乱れ、湧き上がる電子音とともに破壊的な昂揚感を炸裂させる"Stockholm Syndrome"など、異常に個性の強い楽曲群をそこかしこに散りばめながら、トータルとして一片の澱みもなく聴かせきってしまう力量、完成度の高さに脱帽。底の見えない才能の泉。天才ですな。

Black Holes And Revelations

★★★★☆

言ってしまえば、今作において新しい"次元"の音は展開されていない。前作"Absolution"は2ndアルバム"Origin Of Symmetry"において提示された世界観を踏襲しながら、強烈にディストートされたギターの轟音を核に、単なる破壊・攻撃衝動といったレベルを超えた面を描き出すべく徹底的な音の「深化」を図ったアルバムであった。そして本作もまた同様に、2ndアルバムからの延長線上での「進化」を図ったアルバムだと言える。つまり2nd/3rd/4thと移行した三連の作品は、どれも同一次元にて展開された作品群だと言うことになる。そしてこのMUSEという稀有の天才は、末恐ろしいことにこの同一次元のフィールド上でそれぞれに全く異なるアプローチを繰り広げ、作品毎に未だかつて見たことの無い、特異な平面を描き出すという芸当をやってのける。

そんな長い前置きはさておき、本作の中身。
オープニングトラック"Take A Bow"
アナログシンセの高速ループに、マシュー・ベラミーの声が絡みつく。大胆に、などというレベルを遥かに超え、全面に渡って導入される電子音。過剰な空間彩色。あざとさなど一顧だにせず壮大に、豪快に敷き詰められる高密度の音のドラマは、相も変わらず確信の美学に満ち満ちて、笑ってしまうほどにカッコ良い。本作を象徴するディスコライクなビートの多用、既視感の強いメロディアスなシンセラインは、MUSEという異端の世界とリスナー在する現実世界の隣接点として作用し、これまでは創造されていくその様を、ただただ指を咥えて外から眺めるしかなかった彼らの世界を、「共感しうるモノ」へと変える効果をもって鳴り響く。そういった意味では「予測可能な近未来」を思わせるストーム・トーガソンによるジャケ写も、今作の内容と極めてリンクしており素晴らしい。

Tr.2"Starlight"で降り注ぎ拡散する昂揚感は、明らかにこれまでとは異なる陽性のヴァイヴを感じさせ、ネクストレベルへの展望を垣間見せる超絶へヴィ・ロックソングTr7"Assasin"へ、70年代ハードロックの美学を濃縮したような、勇壮かつ壮大な展開を見せるTr.11"Knights Of Cydonia"にて本アルバムは締めくくられる。

何の根拠も無いが、今作は第1期MUSEに幕を引く、締め括りの作品であるように思われる。次に彼らが創造する世界、気が早いけれどもそれが恐ろしく楽しみだ。

H.A.A.R.P

★★★★

07年6月/英国Wembley Stadiumで行われたライブを収録したCD/DVD。メインのCDにDVDが付属、って位置づけらしいが、見ればワカル。メインはDVD。CD対DVDではその興奮度合が丸っきり違う!ついでに収録曲数も違う。

プロコイエフのバレエ組曲「ロミオとジュリエット」より"モンタギュー家とキャピュレット家"が流れる中、オーディエンスでぎっしり埋まったスタジアム中央から、3人のメンバーがせり上がってくる。色調補正された画面が、会場に充満する熱気をバッシバシに体感させる中、いきなりの"Knights Of Cydonia"!宇宙を翔ける勇壮なギター・リフ、イントロの合唱、サビの大合唱。狂喜する群集が織り成すスペクタクルな音場は、全身の毛穴が全開しそうな強烈な昂揚を醸している。

"New Born"ではワケノワカラナイほど強烈なギター・エフェクトが煽情し、"Blackout"では対の人間が幻想的に空を舞う。背後の巨大スクリーンには、U2のZoo TV Showばりに多彩な映像が投影され、何よりスタジアム全体に施されたシンメトリックなステージの造形美が、見る者の目を奪う。

今回観ていて強く感じたのは、"Unintended"や"Feeling Good"といったスローなナンバーでこそ、逆にスタジアムという広大なスペースを使って酔わせ、一方で十八番の激しい楽曲群では、ライブハウスばりの近接した熱気で巻き込んでいくという巧さ。雄叫びを挙げずにはおれん揺れ/タメと爆発の連続展開には、現在最高のライブバンド!の名がダテでないと思わされる。

前回のライブDVD/CD"Hullabaloo"の異常な熱気/テンションも強烈だったが、今回はそれに別方向からタメを張る素晴らしい内容になっている。パフォーマンスそれ自体は当然として、それを記録するハイレベルなカメラ・ワークは驚き。動き回る複数の視点はどれも、ここまで出来るのか!と唸るほどにエキサイテイングな"画"を連続して叩き出す。臨場感溢れるショットから、当日その場に居てはは絶対に目にすることの出来ない超広角のスペクタクルまで、過剰なまでに目まぐるしく転換する視点はやたらと攻撃的。最近のライブ映像を観慣れてないこともあってか、こうした映像作品の良さみたいなものを実感できる作品だった。

The Resistance

★★★★

約3年のスパンでリリースされた5thアルバム。前作で大々的に取り込まれたシンセ/ストリングス/コーラスは今作でさらにそのポピュラリティを増しまして響き、各所でモロに散りばめられる「クラシック」なフレーズと相まって、よくも悪くも従前になく「コチラ側」な存在に感じられる。

凡庸になった、とは全く思わんが、「超絶」の上書きを続けてきたようなこれまでと比べると、今作で随分とコチラ寄りになった「美学」にはやや磨きの物足りなさも感じたり。まんまQUEENな熱唱が拡がる"United States Of Eurasia"、同じく「スタジアム級」の歌とギターが飽和する"Guiding Light"、映画のサントラめいたファンタジックなストリングスが映画のサントラめいた景色を浮かべる組曲風のラスト3トラックなどなど、なにせ基本のパーツが好きなので惹かれずにはおれんのだが、そういうコチャコチャしたこと言わせんぐらいに「スゲー!」と唸らす、「ヤリ過ぎだろ!」と呆れるほどに圧倒する、そんな分厚い凄みがもちっと欲しかったなーというのが正直なところ。

http://www.myspace.com/muse



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