MAHAVISHNU ORCHESTRA/The Inner Mounting Flame

★★★★☆

71年発表。今作並びに次の"Birds Of Fire(火の鳥)"は、いわゆる「ジャズロック」界の名盤として名高い、らしい。メンバーは↓の5人。

John McLaughlin(acoustic and electric guitars)
Billy Cobham(drums)
Rick Laird(acoustic and electric bass)
Jan Hammer(electric and acoustic piano)
Jerry Goodman(violin)

いずれも超が付くほどのテクニシャン。ギターのジョン・マクラフリンは、以前にマイルス・デイヴィス・グループの一員として、名盤"Bitches Brew"のレコーディングにも参加している。このデビュー盤では、それら個々の強烈なプレイが雷鳴の如く走り抜け、スリリングな激突をもって華麗な火花を散らす、まさに音と音のバトルが繰り広げられている。思わず目ん玉も飛び出ます。

ジャズと聴けばどこか洗練されたイメージも浮かぶが、ここでは何よりも血肉の通った音塊が吐き出す、アグレッシヴで荒々しいエモーションが先行して感じられる。先の「洗練」は、異常なテンションで掛け合わされる激しい音の応酬を、ギリギリ暴走の手前で繋ぎ止め統制するクサビ程度の存在(ビリー・コブハムのジャジーなドラミングが専らその役割を担っている)かもしれん。

マクラフリンのギターが鳴けば、ヤン・ハマーのエレピがすかさず呼応し、ジェリー・グッドマンの怪しくウネるヴァイオリンが下から湧き上がる。スピリチュアルな浮遊感/酩酊漂うスローなナンバーを挟みつつ、ファストな楽曲ではそれこそ一気呵成に激しく攻め立てる。楽曲の中で下手に大きな緩急をつけない分、それぞれの印象が非常に強く残り、長尺ナンバーにおいてもその時間を全く意識させることが無い。この異常に高い地点で展開される扇情的な音の空中戦は、35年以上を経過した現在でも非常に鮮烈。

www.myspace.com/mahavishnujohn

Birds Of Fire

★★★★☆

72年リリースの2nd。マハヴィシュヌの最高傑作として挙げられることも多い名盤。各々の「超絶」をぶつけ合ったような前作に対し、それぞれの楽曲に深みのある表情が伴って感じられる。音響面からしても、マクラフリンのギター/ヤン・ハマー操るシンセが劇的に多彩化。より"魅せる"向きの強まった傑作。

アート・ブレイキーの"イフェ・ラヨ"冒頭を思わせるドラの調べにより幕を開け、マクラフリンのギターが吼えまくる"Birds Of Fire"、高速ドラムのビートの上で、ヴァイオリン/ギターがユニゾンかましまくる"Celestial Terrestrial Commuters"、マクラフリンの12弦ギターが降り注ぐオリエンタルな"Thousand Island Park"、安息と恐慌が混ぜこぜになったような黒い音群が空間を侵食していく、クリムゾンライクな"Resolution"など、それぞれに異なる表情を持ったハイクオリティな楽曲群。

ベストトラックはTr.7"One Word"
ベースソロを基点とし、ギター/シンセ/ヴァイオリンが競い合うように立つ。左右のスピーカーユニットを揺らすインタープレイの応酬から、最後にはドラムスまでがリズムで唄い、高速のユニゾン渦巻くクライマックスへ。9分間の至福が味わえます。

今作以降顕著になってくるインドへの傾倒は、垣間見えこそすれど僅かな感覚で、ほとんど意識に上らない程度。ジャジーな側面を孕みながらも、非常にクオリティの高いロック・アルバムとして聴ける作品です。

Between Nothingness & Eternity

★★★★

73年発表の3rd。全て新曲によるライブ録音という内容。なので観客の拍手歓声嬌声もバッチリ入っちゃっている。下の収録時間を見て判るとおり、3部作の中では最もプログレッシヴな風味が強い一枚。

Tr.1 TRILOGY(12:01)
   The Sunlit Path
   La Mere de la Mer
   Tommorow's Story Not The Same
Tr.2 SISTER ANDREA(8:22)
Tr.3 DREAM(21:24)

録音状態がそれほど良くないせいもあるんだろうが、前2作と比べると、醸し出される興奮の度は少々低め。マクラフリンのギターの暴れっぷりは恐らく3部作中随一だし、各メンバーにしても非常に熱の入ったアンサンブル(と時に暴走)で魅せている。

例えばTr.3"Dream"の8分前後で猛烈に湧き上がるヴァイオリンや、土臭くパワフルなリフから、いきなり凱旋的な勇壮のメロディをかき鳴らし始めるギターなど、端々でオォ!!と思わせる瞬間はあるものの、必要以上に間延びして感じられる展開はやはり気になる。全体を通してのスリリングな熱が無いというか。個としてのプレイが少し強いような気もする。

今作をもって、第1期マハヴィシュヌは終幕。次作以降ではロンドン交響楽団との共演を取り込むなどして、マクラフリンの内にある世界観をいっそう表出させていくような音が創造されていく。こちらも、またまとめて書いていこうと思う。



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