LONGPIGS/The Sun Is Often Out

★★★★★

文句なしに最高のアルバム。食人族から見た人間、「細長い豚」という不可思議な名を持つバンドのボーカル、クリスピン・ハントは、彼自身かなり変わった遍歴を経ている。ヒッピーの両親のもとに生まれたクリスピンは、神学や哲学を学んでいた大学を中退し、アコースティックギターを片手に世界を放浪。老人ばかりのど田舎で曲を書き溜め、各地で自分の理想とするメンバーを集めてバンドを結成。しかしバンドは移動中に交通事故に遭い、クリスピンは生死の境を彷徨う。

と、かなり強烈な人生を歩んでる彼だが、このデビューアルバムには、その半生を凌駕するぐらいに激しい、強烈な美しさがある。大きな括りとしてはUKギターロック。しかしそんな括りを問答無用に吹っ飛ばしてしまうのがクリスピンの声。壮絶。自らを焼き尽くすように全身全霊をかけて叫ぶ彼の声は、他に比する者が思い浮かばない圧倒的な存在感を放っている。とてもじゃないが「Radioheadのトム・ヨークみたいな」、なんて形容で済ますことができるもんじゃない。そしてこのクリスピンの声に応えるかのように、「嘆き・怒り・悲しみ」といった感情を完璧に表現するギターが凄い。ものすごく上手い。とにかくアルバム全編に途切れることなく漂う、いつ振り切れてもおかしくないぐらいに張り詰めた緊張感が物凄い。そしてその中にある破滅的な美しさが、神々しい輝きを放って胸をえぐる。崩壊する精神を描くように、音を外して崩れていくピアノの旋律が締めくくる終曲"Over Our Bodies"に至るまで、誰にも真似のできない世界観に埋め尽くされた傑作アルバム。



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