KASABIAN/ST

★★★★

「エクスターミネ−ター期のプライマルだ」との前評判を聞いていたので、凶暴なビートが暴れまわる攻撃的なデジタルロックチューンを想像していた。が、結論からいうとかなり、というか全然別物のサウンド(少なくとも個人的にはそう感じた←ちょっと弱気)。

冷気が部屋をスーっと覆い尽くすように流れるSEの音により導入されるオープニングトラックは、お馴染み"Club Foot"。絨毯爆撃のようなベースラインと野性的なボーカル、「あ〜ああ〜あ〜ああ〜」という意味不明の原始的コーラス、その野太いサウンドの下から湧き上がるように挿入されるシンセに否応なく体が揺らされる。まさにキラーチューンと言える楽曲だが、思うにメンバーにとってこの曲はBRMCの"Whatever〜"と同じ位置づけなんではないだろうか?とも思う。扇情的なメロと瞬間沸騰的な盛り上がりを見せるサウンドは、アルバム全体の中で見ると幾分異質な感じがしないでもない(←また弱気)。

Tr.2の"Processed Beats"は、東洋的な響きのアコギとゆるいグルーヴを描くベース、乾いたビートを刻みこむドラムスと空気中に拡散するシンセの音色が交わり、ドラッギーなサイケデリックチュ−ンを展開。続く"Reason Is Treason"、これは何度聴いてもTCTCの"Let's Kill〜"に聴こえてしまう(曲中ではクーラシェーカ−の"Sound Of Drums"のデジタルリミックスかと思う瞬間も飛び出す)。地下室のような暗さ、冷ややかさを感じさせる音空間と、その空間へパーッと拡散するように鳴り響くシンセ・エレクトロニカ音が心地良いTr.4、7、11、予想もしていなかった陽性のヴァイブを撒き散らすアーシーな曲調のTr.6、8、Quarashiが演っていても全く違和感がなさそうなミクスチャーサウンドのTr.10、中世の古城で繰り広げられる舞踏会を連想させるピアノの重厚なストリングスが印象的なインストナンバーTr.12など、ヴァラエティーに富んだアルバム。大きな起伏が少ない分、かなり中毒性は高い。これだけ騒がれるとこれから大変だと思うけど、この感性を大切に磨きあげていって欲しいなぁと思います。偉そうに言ってスイマセン(←最後にまた弱気)

Empire

★★★☆

全世界で100万枚を超えるセールスを記録したデビュー盤から2年の期間を置いてリリースされた2nd。プロデューサーには前作同様Jim Abissを、ミキサーにはAndy Wallaceを据えるという、個人的な好き嫌いは別として中々に豪華な布陣。

タイトルトラック"Empire"により幕開け。骨太なビートが縦のリズムを造形し、小気味よく刻まれ揺れるメロディと共に波状のグルーヴを形成していく。音の基本型は前作同様ながら、小規模な転調の導入、ストリングスやバックコーラスといった煌びやかなファクターを前面に押し出し鳴らされるサウンドからは、前作において『黒さ』を醸していた響きがかなり払拭されたように感じられる。

ためか、どうにも軽佻浮薄な感触が付き纏う。それが天然のモノではなく例え造られたモノであったとしても、ロックのダイナミズムや揺れ動くグルーヴの快を感じる瞬間が、前作では確かに其処此処に在った。しかし今作、とりわけ中盤から終盤にかけては、ただただメロディが流れ去り、何らの凄みを見せることなく終わってしまうようで、まるで刺激や面白みが感じられない。

土着の民族臭を感じさせる、煌びやかなストリングスが華麗に弾けるTr.4"Me Plus One"などは、ドヴォルザークのスラブ舞曲を思わせるところなどもあって面白いのだが。クラスの優等生になったというよりは、目立たぬ凡の子になってしまったような、多分に物足りなさを覚えたというのが正直な感想の一枚。

West Ryder Pauper Lunatic Asylum

★★★★

前作で「あらぁ、完全に終わったわー」と思った00年代UKロックリバイバルブーム勢の筆頭株であるカサビアンの、約3年ぶりとなる3rdアルバムを聴いた私は、しかし当初の「意地悪目線」を見直すことになったのでした。

厚いビートに無頼風のフレーズを被せて揺らすオープナー"Underdog"から"Where Did All The Love Go?"へ。そのまんま「K!I!L!L!」とか言い出しそうな既視感ありまくりの展開ながら、今作はなんともイカした音処理がその空間に魔法をかける。バンド側からラブ・コールを送ったというプロデューサー/DAN NAKAMURAの手腕が素晴らしく、野蛮なグルーヴ+サイケデリックな陶酔感、あるいはラディカルな扇情性+リリカルな透明感といった、恐らくバンド側がやりたくてたまらなかった(そして前作では見事にスベっていた)事柄をかなりスマートに結実させて聴こえる。

大まかなフィーリングとしては、衝動最優先の有り余る勢いをJim Abyssのイマっぽいアレンジが上手く希釈して整えた1st、そもそもが詰め込みすぎだったモチーフに今度は逆にJim Abyssの装飾が輪をかけたクドさを醸して消化不良を起こしている2nd、そしてバンド側が漠然と描くイメージをDan Nakamuraのプロデュースによってかなり巧みに具現化してみせたのがこの3rd、といった感じがする。個人的にはやたらモタついたグルーヴを前面に出したTr.5,6あたりはクドい!って感じで「要らなーい」と思ったりしたが、そっから後半にかけて持ち直しちゃうところも含めて、1stほどではないものの何気にしっかりとリピート欲を煽る作品になってると思う。これを全部「プロデューサーのおかげだ」と言っちゃうのは意地悪に過ぎるので言いません!でも間違いなく言えるのは、、、このジャケはダサいっ!!!ということだ。

http://www.myspace.com/kasabian