JJ72/ST

★★★★☆

2000年リリース、アイルランドのダブリン出身の3人組JJ72の1st。裏ジャケにはどう見ても10代にしか見えないあどけなさの残る3人の写真。が、アルバムの内容はこちらの度肝を抜くのに十分なインパクトと完成された世界観に満ちている。なんといっても特筆すべきはVo.マーク・グリーニーの声だろう。予備知識なしに聴けば女性の声と見紛うような、凄絶に澄んだハイトーンボイスはかなり強烈。加えてマークの声は単に「美しい」という形容だけで終わらせることの出来ない存在感をも併せ持つ。随所で時折顔を覗かせる荒々しく凄みのある低音から、Placeboのブライアン・モルコのような艶かしい雰囲気まで、まさに変幻自在の彼の声。ここまで存在感のあるボーカルはなかなかいないだろう。

このマークの声がもっとも強烈に光るのがTr.8"Broken Down"とTr.9"Improv"。ドラムを廃したシンプルなギターサウンドのみから成り立つこの2曲では、低域から高域まで悠々と歌い上げる超絶ボイスが脳に突き刺さってくる。一方、"October Swimmer"、"Oxygen"、"Snow"などでは、静かな立ち上がりから一気にドラム/ベース/ギターが雪崩れ込み、美しく力強い叙情系サウンドをかき鳴らされる。この辺は3ピースバンドの強みを最大限に発揮し、息のピタリと合ったスリリングな演奏を見せている。

どうしてもマークの声に注目しがちであるが、メロディーについて見ても先に挙げた楽曲はもちろんのこと、どの曲も素晴らしく美しい。"Surrender"を始め、絶妙のタイミングで入り込み、曲群にドラマチックな変化を与えているFergalのドラミングもまた格別。JJ72の曲は所々でLongpigsにも通じる雰囲気を醸し出す。ギターはLongpigsほど感情を顕わにしないものの、燃え尽きる直前のロウソクの炎のように、激しく燃え盛りながらもすぐに崩れ折れてしまいそうな脆さを感じさせる空気感。とにもかくにも素晴らしいデビューアルバムだ。

I To Sky

★★★★

2002年リリースの2nd。至上の叙情性・エモーションを解き放つ音の基盤部はそのままに、ストリングスやリズムによってスケール感を増幅させた快作。プロデュース&エンジニアにはU2やスマッシング・パンプキンズを手掛けたフラッドとアラン・モウルダーを迎えている。

憂鬱の色彩を描き出すピアノの独奏に、寄り添うように紡がれるマーク・グリーニーの歌が琴線を揺さぶる"nameless"によりアルバムは立ち上がる。ギターのダイナミズムが炸裂し、一気に高みへと飛翔するTr.2"Formulae"、性急に駆けるアンサンブルの上、剥き出しの敵意を叩きつける"声"が炸裂する"Serpent Sky"など、今作で解き放たれる音の端々から、一回り逞しくなったバンドの姿を窺い知ることができる。

しかしマーク・グリーニーの声の素晴らしさたるや!一瞬にして聴き手を天空へと連れ去るファルセットもさることながら、時折顔を覗かせる、あらゆる者を畏怖の念で叩き伏せるが如き崇高な低音パートは鳥肌モノ。1stアルバムリリース時の喧騒もどこへやら、以後手の平を返したように彼らを無視し続ける日本メディアの馬鹿なこと。06年リリース予定の新譜も非常に楽しみだ。



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