FLOWERS OF HELL/S.T

★★★★

大英帝国はロンドンを拠点とする大所帯、British Sea Powerのサポートメンバーもその名を連ねる10人組バンドによる1st。プロデューサーにDeath In VegasのTim Holmes、マスタリングにはDenis Blacham(Who, Zep, Elvis, etc...)を迎え、更にアルバム製作にはSonic Boomが全面的に関わり(内1曲にはゲスト奏者としても参加)、SlipstreamやTelescopesといった大御所在するスペースロック/シューゲイザーバンドのツアーに付いて周るという、バンドの概歴もまたこの大編成っぷりに負けず劣らずの華々しいものとなっている。

そしてそう、その音。スペーシーに浮遊する柔らかなキーボードの光の帯に、クリアギター/ファズの音色が眩い昂揚と共に降り注ぐそのサウンドは、一聴した瞬間に初期Spiritualizedのソレを思わせる。しかしながらそこから得られる感触は、「内」に浮遊するセンチメンタリズムを美しく繊細な音糸によってより合わせ、やがて爆発的な昂揚でもって昇華させるSpiritualizedとは言わば逆のモノ。

「音像」という言葉がピタリとくる彼らのシネマティックなサウンドは、底知れぬ存在感でもって外部に「在る」何かに相対し、打たれ、あるいは包み込まれるような感覚をもたらす。脳裏に浮かぶ、抗うことさえ思いつかぬような絶対的な光景は、GY!BEの楽曲と非常に近しいように思う。

中でも、感傷の澱となり堆積するチェロやヴィオラの旋律の中を、ブラスセクションのスパイラルがファズの閃光を撒き散らしながら駆け上がっていくTr.2"Opt Out"は、Lift〜期のGY!BEとタメを張る、13分間の「必然」を感じさせる壮大なナンバー。

他にも、神秘的なヴェールとなって蕩揺たうストリングスの霧中から、やがてVelvetsの"Run Run Run"を思わせるファズギターの爆雷が立ち現れるTr.3"Synmpathy For Vengeance"、物悲しく鳴り渡るピアノの旋律に、荒野を吹き抜ける風のようなテルミン/チェロの哀愁が絡み合い、Mercury Revにも通じる幽玄の世界を形成するTr.6Compound Fractures"など、その楽曲群はどれもこの音系譜における先達の影響を強く感じさせる。

が、そのどれもが単なるハリボテの物真似に終わることなく、強烈な存在感とそれに伴う昂揚感を放つに至っているところにこのバンドの素晴らしさがある。こうした音を出すバンドの中で久方ぶりに心を揺り動かされた、華やかにして壮大なサイケデリアを描出する素晴らしい一枚。

http://www.myspace.com/flowersofhell
http://flowersofhell.com/(ライブ音源有り)