CRIME IN CHOIR/The Hoop

★★★★☆

 Mars Voltaのセドリックをして、「今、最高に”面白い”バンドだ」と言わしめたサンフランシスコ発のポストロックバンド、クライム・イン・クワイヤーの2nd。ATDI創設期のメンバーでもあったキーボード奏者Kenny Hooperを核に、今作ではHellaのZach Hill(初期のオリジナルメンバーでもあった)やThe Fucking ChampsのTim Greenなどもゲスト参加している。

 しっかし、ホントにユニークな音だこと!裏打ちドラムのタイトなリズム/メロディアスなシンセを下地とし、ほの暗い光を織り込むギターが空間を震わせ、聴き手を奮わせる。ピンク・フロイドを髣髴とさせる、Matt Watersが轟かすサクソフォンの解放感もまた素晴らしいが、最大の特徴は何といっても伝家の宝刀「エレクトリックピアノ・フェンダーローズ」。時に柔らかくムーディーに、時に圧倒的な情感を爆発させながら怒涛のラッシュを見せるアナログな質感の電子音。空間を自在に乱舞し、刷新していく様はさながら壮麗な悪夢を見ているよう。

 捨て曲の見当たらないアルバムの中でも抜きん出て良いのがTr.2"Vene Qua"。小気味よく叩き込まれるドラミングと、背後に邪悪な気配を滲ませるお伽話のような雰囲気のエレクトリックピアノがシンクロする序盤から、クリムゾンの「冷たい街の情景」を思わせる豪快なギターの切込みにより転調する中盤を挟み、水泡が爆ぜるようなシンセに包み込まれるダーク・ファンタズムな終局へと向かう。

 伸張・拡散・収縮を繰り返す展開は、まさに古のプログレ。が、絶妙に抑制・パンチの効いたC'n'Cのサウンドには、下手なプログレバンドに特有の嫌らしさ・押しつけがましさ・息苦しさが微塵も感じられない。YesやKing Crimson好きから、プログレなんて聴いたこともない若い世代にまでアプローチしうる素晴らしい一枚。

http://www.crimeinchoir.net/media/media.htm

Trumpery Metier

★★★★

前作"The Hoop"が昨年度の個人的ベストアルバムだったサンフランシスコの5人組/C'n'Cの3rdアルバム。ダーク・ファンタズムのヴェールに覆い包まれ、さらに伸張の度合いを増して響き渡るサウンドが相当に気持ち良い。

ミドルウェイトのタイトな音塊でバンドグルーヴの土台を型作るベースライン、背後で密かに、しかしてテクニカルに律動するドラミングを従えて、ここでの主役はやはりシンセ/キーボード。全ては鍵盤器楽のために、と言わんばかりにこれらが踊る。踊り咲く。

高らかに鳴り響くシンセサイザーにより導入されるオープニングトラック"Woman Of Reduction"に始まって、とにかくこの2体の鍵盤楽器が前面に押し出され、縦横無尽に駆け巡り空間を埋めていく。時に幻想的な霧と成り幻惑し、時に覚醒のイカズチとして場を刷新する旋律の妙。

これだけ大胆に鍵盤がフューチャーされるとなると、ともすればある種の嫌らしさ/怠惰な空気による弛緩を見そうだが、前作から更に王道の70'sロックへと没入したギターが放つ耳障りの良いリフを始めとし、背後において高いスキルでグルーヴを支える先のバンド・サウンドが、さながら鍵盤隊の放蕩を笑って許すかの様相でしっかりと引き締まったアンサンブルを構築。それを許さない。

要所で絶妙に導入されるコーラス・ワークが魅惑のストリングス隊と共に津波となって襲い来るTr.6"Measure Of A Mster"は、終盤で何とも軽やかに転調、爽快な飛翔感を描き出す。クリムゾン・ライクなメロディをベースに次第に白熱、Matt Watersによる放埓なサクソフォンがここぞと火を噴くTr.7"Trumpery Metier"における展開が放つは、背筋がゾクゾクするようなスリリング昂揚感。

邪悪な御伽噺を思わせる、独自の仄暗い昂揚を湛えた世界観はそのままに、各楽曲が一層の深み・伸張性をもって鳴らされている本作は、相当に高いクオリティをもった快作。OHPには来年2月に来日予定ともあり、これまた非常に楽しみだ。

Gift Givers

★★★★

リリースが延びに延び、ようやく出た4thアルバム。Key奏者/Kenny Hopperを中心とするサンフランシスコの5人組prog/instrumentalバンド。

のっけから鍵盤が狂い咲き、美しい悪夢が脳味噌を食んでいく。滑らかな捻転を感じさせるダーク・ファンタジー。デビュー時から完成されていた独特の音像は相変わらず。なんだけど、2ndあたりで特に強かった背後の「御伽噺」的雰囲気はやや後退。替わってピンクフロイドばりの「幻想譚」や、クリムゾンライクな「邪悪」の直接描写にいっそう拍車がかった楽曲が、往年のprog/psychの旨味を綺麗に浮かび上がらせる。

カッチリとしたリズム隊を枠組に、中で柔軟な展開を見せ魅了するアナログ・シンセ+ローズ・ピアノの双璧。「めくるめく」って言葉がこれ以上ないほどしっくりとくる夢中のインストゥルメンタルがやっぱり特異。豪快なギター・ソロ、熱く滾るsaxの咆哮を巧みに散りばめ、浮上から旋回滑空までを完璧にキメて魅せるTr.1,3,5へ、アブストラクトに煙った景色をボゥと浮かばせる小編成ナンバーを入れ子構造で配置する。よく言えばこれまでで一番纏まってるんだが、反面、やや押し出しの強さや真新しさに欠けるかも。次あたり、何かしらの新機軸にも期待したいなー。

http://www.myspace.com/crimeinchoir