CLINIC/Internal Wrangler

★★★★

イギリスの4人組バンドClinicのデビューアルバム。Radioheadのオープニングアクトに起用されたり、メンバーが手術衣着てマスクしてたり、と話題性には事欠かないバンドですが、音のほうも鍵盤ハーモニカを始めとして色んな楽器を組み入れていて、ジャジーな雰囲気漂う、一風(というかかなり)変わったサウンドを鳴らしてます。で、こういう風変わりなサウンドなので気づきにくいんですが、彼らの音をなんだか体が反応してしまう気持ち良さを持ったものにしているのは、背後で鳴ってるベースだったりするんですね。実はしっかりと自己主張してるベースが刻むやけに腹に響く低音が、彼らのサウンドの骨格をしっかりと作ってます。

さてさて内容のほうはというと、1曲目のインストから、インドの路地裏を歩いていたかと思ったらいきなり太陽を反射してきらめく海辺に連れ出されたかと思うような、びっくりするぐらいに表情を変えるサウンドが登場します。全体的に、楽器の生々しい感じと、妙に柔らか味のあるエレクトニカなサウンドが絶妙に絡んでいて、ジメジメした感じと同時にそこに差し込む光も感じられます。この不思議な感覚は癖になりますね。アルバム前半に対して後半の詰めが少し甘いようにも感じますが、実験的でありながらものすごくポップなこの作品、すごく良いです。

Visitations

★★★★☆

3rdアルバムリリース後、メディアには表立って取り上げられなくなってしまった感もあるが、リヴァプールの4人組/Clinicが2年ぶりとなる新譜をリリース。これがもう、ホントにカッコイイ!!!

全ての音が先鋭化した今作。猛々しく刻み込まれるギターの反復と、歪められたベースの暴圧。人に非ずなヴォーカリゼーションが、ピアニカの怪しい音色と共に場を染め上げるそれは、ブルージーなガレージサウンドを基調とした他に類を見ない特異な世界。

これまでに見られなかったグルーヴィーなギター・カッティングが素晴らしい昂揚で世界を刻むTr.2"Animal/Human"、密教じみたコーラスの後景で、Spiritualizedばりのファズギターが爆雷の如く鳴り渡るTr.3"Gideon"など、前半部からしてかなりのインパクトを放射する今作。

が、本当に素晴らしきは中盤部から。マジなのかバカなのか、大仰たるファンファーレが高らかに鳴り響き、暴力的にリフレインする歪みきったリフとアブナイ響きのピアニカがシンクロ、暴力的な昂揚を描く前半部から一転、突如として港町の昼下がり、うらびれた路地裏へと引きずり込まれるような大胆な転換を見せるTr.7"Children Of Kellogg"はほとんどショッキングなほど。さらに、奏でられる鍵盤の流麗が何度も何度もバックに流れ去り、これは何かの黒魔術かと思わせる、コーラスとも呼べぬ遠吠えが激烈な興奮を喚起するTr.8"If You Could Read Your Mind"は、"Walking With Thee"を超えるインパクトを持った素晴らしきナンバー。

一作目からしてそのスタイルを確立してしまっているバンドなだけに、音自体に大きな変化は無い。が、明らかに今作は彼らの最高傑作。これが売れなきゃ、嘘だろう。カッコよすぎます。

http://www.clinicvoot.org/

Funf

★★★★

リヴァプールのマスク集団/Clinicの新作は、過去10年のシングルBサイド、及びアウトテイクのコンピレーション。B面集なんてのは、大概が毒にも薬にもならん印象薄の作品であることが多いけど、このFunfに関して言えば、全12曲29分と小ぶりな作りであること以外、過去4枚のアルバムと比べてもまるで遜色が無い。

チープな因子でゴージャスな旋律を奏でるオープニングのインスト曲"The Majestic"は、Phil Spectorライクな嘘くささ漂うレトロな華やぎで場を包み、パンキッシュなリフが暴れる90秒間のTr.2"Nicht"にて、ガッチリこちらの意識を惹きつける。隙間だらけのエレクトロニカ/パーカッションが置き捨てられ、Ade Blackburnの物憂げなヴォーカルが気だるい空気を描いていく"Christmas"、歪みきったギターが荒々しく闊歩しつつ、時折B級シネマ然としたフレーズが漏れ来る"You Can't Hurt You Anymore"あたりのインストナンバー群も好インパクト。

Tr.7"Magic Boots"みたいなスッカスカの直球ガレージでさえも、一聴した瞬間にClinicだと判ってしまう独特な空間。加えて、薄汚れたアジアの雑踏へといきなり引きずり出されるような、軽くショッキングな空気の転換がとても中毒的。遠くで響くファズギターに歌うメロディカ、さざ波のようなコーラスが(クソ暑い国の路地裏の光景と共に)気持ちの良い午睡をもたらす"Golden Rectangle"にて幕引き。いやー、完成された音を持ったバンドは強いな。クセ在り過ぎなヴォーカル含め、物凄く特異な空間の中毒性はかなりのもの。

Do It!

★★★★

近年やたらとリリースペースが上がっている、リヴァプールのマスクマンらによる5thアルバム。前作同様、余剰を削いだ"剥き出しの変化球"がラララ脳幹を奇っ怪に喰い荒らす。

根幹の仕様はそのままに、細部の色づけにこそ偏執したような最近の作品群。粗切りのディストーション/ファズが刻む直接性と、異界を覗くピアニカの怪しすぎる調合。ハープシコードが雅に舞い、サキソフォンがフリーキーに踊るその下を、骨太なリズムがノシノシ進むジャンクネス。様々な方角から三半規管を揺らし狂わせる、異種混合のサイケデリック・ガレージサウンド。メロディは半ば悪夢めいたキャッチーさで反復し、それを唄うAde Blackburnもこれまた悪魔的な異彩で全容を呑んでいく。とにかく異常にアタマに残るこのメロディ。既視感ありまくりなフレーズも、ここまで来ればもう間違いなく確信犯。未だ『CLINICっぽい』という形容にお眼にかかったことがないように、この音世界は完全に異質。

悪い点=変わっていない
良い点=変わらない

つまりはそんな作品。前と一緒やん!と言われれば仰るとおりっ!なんだけど、完成された世界の細部を少しずつ塗り分けていくような偏執性は、回を増すごとにその度合いを強めているような。夢にまで出てきそうなクセありまくりな音像/メロディが、頭ん中をスッカリ駆逐いたします。

Bubblegum

★★★★

1年半のスパンでリリースされた6thアルバム。変化球、というわけではないが(見ようによってはストレート!?)彼らの履歴の中で見ると、ちょっと特異な毛色にも見える作品。

というのもつまり、バンドのルーツであろう音/モノがこれまでになく素直にオモテに出てきてる。先行シングルでもあるオープナー"I'm Aware"は、背後で漣立つビンテージな旋律が、旧い映画のワンシーンのようなノスタルジアを浮かばせ一気にマジカルな世界の扉を開く。続く"Bubblegum"でのレトロで甘いメロディや"Baby"でのとんでもなくメロウなメロディは、普遍的とも言える「POP」の最良を感じさせ、"Radiostory"に至ってはVelvet Undergroundの"The Gift"を思わせるコラージュも飛び出す。ヘヴィなリズムがドシドシと闊歩する「いつもの」CLINICサウンド"Lion Tamer"にしてみても、やおら木琴のような打音が跳び始めるや一挙に珍奇な空気が溢れ出し、実に奇天烈な残響がアタマに残る。

デビュー盤から一貫して"誰が聴いてもCLINIC"なサウンドを確立している彼ら、今作でもそれはそうなのだが、金太郎飴っぽくないイロのばらつきが絶妙に、新鮮。我が国ではどーしてこんなにも売れないのか不思議になるぐらい、良いアルバム。

http://www.myspace.com/clinicvoot



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