CLEARLAKE/Lido

★★★★☆

Brightonの4人組、Clearlakeの1stアルバム。ここ日本ではひっそりとリリースされた感があるが、もっと取り上げられてもおかしくないような、非常に高いクオリティーを持った素晴らしいアルバム。

Tr.5のメロディーをなぞりながら、幻想的な世界の始まりを告げるかのように、密やかに鳴るインストに続き、重々しいドラム音と共に幕を開けるTr.2"Sunday Evening"。豪快でありながらも、同時に繊細なはかなさを感じさせるギターのベールに全編が覆われたTr.3など、冒頭でこのバンドの持つ独特の世界に引き込まれる。

続く曲群においても、メロディアスなフレーズと共に、音の端々で顔を覗かせるキーボードやハーモニカの音、曲間で効果的に導入されるインスト曲などによって、どこかノスタルジックで浮遊感のある世界から、リスナーを捉えて離さない。そして終曲のWinterlightにおいては、全ての音が渾然一体となり、螺旋を描きながら昇り詰めていき、大きな高揚感とともに、華々しく幕を閉じる。

ウィットに富んだ詞とともに、しっかりと音が構築されたこのアルバムは、ただのインディーギターバンドとは一線を画すセンスを感じさせる作品。音の雰囲気的にはdeserter's期のマーキュリー・レヴにシューゲイザーサウンドをまぶしたような感じだろうか。ジャングリーなギターワークにはVelvet Undergroundからの影響も感じさせる。dovesやelbowの持つ、冷え冷えとした空気を孕んだ暗いメランコリズムが好きな人にも聴いてもらいたい。

Cedars

★★★★☆

Cocteau TwinsのSimon Raymondプロデュースによる2ndアルバム。幻想的なギターのベールと、浮遊感のあるサウンドに覆われ、夢の世界で戯れているかのような逃避的雰囲気が漂っていた前作とは対照的に、今作では鬱々とした現実世界に目を向け、それをシニカルに切り取ったような、暗いメランコリーを色濃く含んだ空気に全編が覆われている。

疾走するギターと共に、唐突に幕を開けるオープニングトラックのAlmost The Sameは、前作からの橋渡しとも言えるサウンド。続くThe Mind Is Evilで導入されるチェロ、ビオラ、バイオリンのストリングスは、Jason Peggが歌う美しいメロディーラインとともに、聴き手を冷たい世界へとゆっくりと引き込んでいく。エフェクトのかかったドラムが静かに重なるTr.3における"The last thing you're expecting when you're looking for a window is to see it look so grey" というlyricsもまた、このアルバムの世界観を端的に現しているように思える。

"I wouldn't hurt a fly, but I'd really like to punish you"(Tr.5)、"Don't try to tell me you've never been cruel"(Tr.6)といった、人間の精神性の脆さを感じさせるような歌詞からも分かるように、メロディーはあくまでもキャッチーでありながら、このアルバムには終始不穏な、聴き手の不安や閉塞感を煽るような雰囲気が漂っている。

そしてそれだけに、それまでずっと押し殺されていた感情が一気に溢れ出すようにギターがバーストする大曲、Tr.10のダークサイケデリアは圧巻。終曲Trees in The Cityでは、アルバムを覆う闇の中に希望の光が差し込むように、美しいピアノラインが鳴り響き、救いとともに幕を閉じる。前作以上に、個々の曲と全体の流れをしっかり考えて作られた素晴らしいアルバム。

追記:冒頭1曲目の前に、9分ほどの隠しトラックが収録されています(VUの"Sister Ray"っぽい感じの部分があったりして面白い。)また、後発のUS盤ではTr.5、Tr.6が別バージョンにて収録。

Amber

★★★★☆

 前作「Cedars」から3年、ドラマーの交代を経てリリースされた英国ブライトンの4人組、Clearlakeの3rdアルバム。従来のセルフプロデュースに加え、今作ではスティーヴ・オズボーン (U2, Happy Mondays) 、ジム・アビス(Kasabian, Dj Shadow)を迎え、さらにフィル・ブラウン(Talk Talk, Bob Marley, Led Zep, Hendrix)がレコーディングを担当している。

 オープニングトラック"No Kind Of Life"、粗い粒子のドラミングと抑揚を廃したメロディの反復が、やがて表出するシンセとギターに覆われていく。路地裏の密やかな喧騒を想起させるサンプリングと幻想的なチェロの旋律が溶け合い、夜の静寂を切り取っていくTr.3"Amber"から、先行シングルともなった"Good Clean Fun"へ。強烈なファズギターが錯綜し、ディストートされたボーカルが狂騒の谷間で浮遊する。咆哮を挙げるディストーションギターとツインドラムの暴力が、QOTSAばりのストーナーロックを殴り描く"Here To Learn"と、漆黒の闇の中、明滅する鍵盤と幻想的なフィードバックノイズがアンビエントな空気を創造する"You Can't Have Me"のコントラストも素晴らしい。さらに本作を象徴する珠玉の3曲について書いてみたい。

「君の死を夢に見たんだ。目が覚めて僕は泣いた。本当に本当に怖かったんだ。君がこの世からいなくなってしまうなんて」
精神に内在するメランコリアを完璧に表現したTr.8"Dreamnt That You Died"は、Jason Peggの類稀なソングライティング能力と"声"を活かしきった、Clearlakeというバンドが持つ最大の魅力をハッキリと感じさせるナンバー。

「夜の空気に魅入られるって言うのかな、あの夜特有の不思議な昂揚感を描きたかったんだ。」フロントマンJason Peggは言う。
抜群にキャッチ-なメロディとジャングリーなギターコードが睦み合い、ヴァイオリンを始めとする華々しいストリングスが炸裂、ハイハットの高らかな響きがそこに輪をかけた昂揚感を描き出すTr.2"It's Getting Light Outside"は、男女のプラトニックな愛を謳い、夜の幻想的な清廉さと仄かな官能性を感じさせる素晴らしい楽曲。

「ステージ上で我を忘れてプレイできるような激しい曲を」
唐突に吹き荒れる生々しくブルージーなハーモニカと、ジム・アビスらしいデジタルな質感のドラミングと爆音ギターが融合するTr.10"Neon"は、その名のとおりネオンの毒々しくもサイケデリックな色彩と、炸裂する轟音の昂揚感を横溢させる、間違いなく今作におけるハイライトトラック。
 
"midnight fog"
Clearlakeの作品を覆う独特のヴェールについてこう表されているのを目にしたことがある。逃避的な夢幻の世界を表出させた「Lido」、現実をシニカルに切り取った「Cedars」、そして今作では、夜に瞬く琥珀色(Amber)の光の中で蠢く人間模様が描かれているようだ。前2作に比べると、作品トータルで提示される世界観は弱まった反面、個々の楽曲が放つ屈強性が増したように思える。もっと多くの人に聴いてもらいたい、本当に良いバンドだ。

NOT BIT OF WOOD/Musikland

★★★★

 CLEARLAKEがNot Bit Of Wood名義で活動していた頃のアルバム。当然のことながらここには後のデビュー盤「Lido」と非常に似た空気が流れており、そして意外にも修められた楽曲のクオリティーはかなり高い。

 $箱を引っくり返したように煌めくキーボードの旋律と、Peggの邪気の無い歌声が心を洗う"Perfect Setting"、トロピカルな音色のキーボードがまたまたメインパートを司り、遊び心溢れる歌詞の上から甘いシロップを降りかける"Ice Cream"、ガラリと雰囲気を変えたアダルトなヴォーカルが、夜の艶やかな空気を孕んだレトロチューンとともに炸裂する"Let's Get Out Of Here"、産声をあげるフィードバックノイズに始まりディストーションギターの旋風吹き荒れる"Bad Hair Day"(Let Goの原曲っぽい)、ディズニーも真っ青の夢幻世界でのポップな戯曲"I Want to Live In A Dream"(Lidoにも収録されている)へと続く。バウンシーなビートを弾き出すベースに、負けじと軽やかに跳躍するファズギターが絡みつき、そしてこれぞブリットポップの十八番とばかりに、韻を踏みまくったリリックがブチマケられる"The Weekend Is Nigh"はUKインディー好きには悶絶ものの好ナンバー。わずか30分間のポップワールドを締めくくるは、CLEARLAKE名義でのファーストシングルとなり、NMEのSingle Of The Weekにも選ばれた"Winterlight"。このアルバムの収録バージョンでは、より精緻な印象を強く感じるアレンジが施されている。

 サウンドスタイルは完全にB級の響き。なのだけれど、それがこのシニカルでウィットに富んだ歌詞と絶妙にマッチしており、90s半ばのUKロック好きにはタマラン魅力を放っています。何気に良盤。



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