CASPIAN/The Four Trees

★★★★

"ブライアン・イーノ指揮による、EITSとISISが織り成すシンフォニー"というほとんどワケのの分からんハイパーな形容が為されていた、米マサチューセッツの4人組インストゥルメンタル・ロックバンドによるデビューフル。

大きく見ればその音の形式は、美麗な旋律と荒々しい轟音を掛け合わせた、それほど珍しくないタイプのもの。しかし一方で、この4人が打ち鳴らす楽曲は、かかるステレオタイプな音像を打ち砕く壮麗な歓喜の瞬間を、随所で豪快に炸裂させていく。

ノスタルジックなクリアギターの旋律により幕を開け、ドシドシと踏み抜かれるバスドラの屈強なリズムの牽引によりバースト。春の嵐が吹き荒ぶ爆音の海上にて、中空を舞い踊るトレモロが拡散するオープニングトラック"Moksha"。澱みなき展開により分厚いウォール・オブ・ノイズが打ち立てられていくTr.5"Book IX"。Mogwaiの"My Father My King"をコンパクト化したような、轟音を呑み込む爆音/爆音を塗り替えていくフィードバックノイズが吹き荒れるTr.7"Brombie"。端々で牙を剥き出すヘヴィ・メタリックな音塊が、予想を裏切るようなセンセーショナルな瞬間を創出する様はかなりイイ。

ベストトラックはTr.2"Some Are White Light"
煌めき流れ去るギターテクスチャが、一気に旋風と化し上昇気流を形成、直後に噴出する壮麗なディストーション/ノイズのヴェールにより第一の歓喜的瞬間へ。さらにそこからMOGWAIの"Helicon 1"を思わせる全方位型の至福の爆音にて空間をマミレさせ、更にはスタジアム級のメジャー・リフが悶死したリスナーに掴みかかるラストが待ち構えている。

正直、アルバム中の所々(特に終盤部)ではノスタルジーの澱みに沈みすぎる嫌いはあるし、展開に鈍重さを感じさせる瞬間もままあるには在る。しかし、随所で創造されていく轟音部のカタルシスは、そうした点をも覆い隠してしまうほどに途轍もなく莫大。煌びやかなダイヤモンドダストが吹雪へ、吹雪が鋼鉄のブリザードへと化し空間を舐め尽くしていく様は、まさしく圧巻。絶望も希望も混沌も秩序も憂鬱も歓喜も暗黒も光明も、全てをかっさらい巻き上げ解き放つかのような轟音。主旋律に合わせ舞い踊り、美しくトグロを巻く轟音。あらゆる音が幾重にも折り重なりながら、巨大な螺旋を成して舞い踊る爆裂のシンフォニー。全方位から掴み掛かる怒涛の音鎖に悶絶しました。これも是非ライブが観て見たいバンドです。

Tertia

★★★★☆

米マサチューセッツのポストロックバンドによる2ndアルバム。もはやこの手のジャンルには不感になってしまったと思っていたが、いやはや。これはもう、理屈では説明し難い次元で好きだ。路線としてはこれまでと何も変わらない、低沸点でバーストする轟音インストゥルメンタル。ながら、これまで以上にドラマティックに、ほとんど荘厳の域にまで達した巨大な音像がただただ素晴らしく、吹き荒れるエモーショナルな音渦に終始、没入。

仄蒼い旋律が神秘的にも思える「世界」を紐解くオープナー"Mie"、その明滅を背後に地鳴りのような轟音が轟く"La Cerva"、吹き荒ぶ爆音とキリモミ状の高音が激突する"Ghosts Of The Garden City"へと続く序盤3曲で完全に魅了。感覚としては、EXPLOSIONS IN THE SKYの2ndを初めて聴いたときのような、このジャンルにしかあり得ない珠玉の昂揚感。誠実に打ち続けられるドラムを軸に、途轍もなく巨大な轟音が全方位を埋めていく。要所でダイナミックな蠢きを創り出すベースライン、随所で劇的な華やぎを生むストリングス、それらが渾然と螺旋を成して渦巻くサマが、前作を遙かに超えたヴィジョンをもって圧し掛かってくる。

まるで眼の前で姿を変えていく巨大な渦巻きが視えるような"Malacoda"、柔らかに明滅するKeyがSAXON SHOREばりの優しい光を織り成すTr.5"Epochs In Dmaj"、そこから一気の飛翔により歓喜のシンフォニーへと飛び込んでいく"Of Foam And Wave"、さらには作中で最もクログロとしたヘヴィネスが打ち出される"The Raven"における巨大で透徹としたイマジネーションの奔流、脱け殻のような身体を美しいメランコリーの流れにただただ揺蕩たわせる"Viennna"、そしてラストトラック"Sycamore"で流れ出す余りに美しい旋律と轟音の波状と、全ての終わりの後に打ち続けられるドラムの力強い響き・・・

情感豊かな旋律/巧みな轟音の重奏展開で魅せる、といった次元を超え、全体で一つの「世界観」を感じさせるに至った本作は、まさしく快作。現実には決して在り得ない世界を描きながら、しかしその像を通じてこの上なくリアルな感情を掻き立てられるような、まさしく音楽に触れる中での無上の喜びが味わえます。

http://www.myspace.com/caspiantheband