BARBEZ/Insignificance

★★★★

 ブルックリンを拠点に活動する6人組、Barbezの3rd。今年聴いた中でも1,2を争う「奇態」なアルバム。何と言ってもまず耳を惹きつけられるのが、ロシアのダンサーからシンガーへと転身したKsenia Vidyaykinaの声。オペラティックな華々しさと場末のキャバレーの荒んだ空気が同居する彼女の歌声は、作品全体に異様な緊張感を投げかける。Sonic Youth系譜のギターの不協和音に、GY!BEなどを想起させる徹底して不安定な音を奏でるテルミンやマリンバ、サクソフォンやビブラフォンといった楽器群が多層的に折り重なり、柔軟に伸張していく。東欧的な質感の灰色のインストゥルメンタル群が性急に、おぼろげに直情的に繊細に大胆に音を叩きつけ、三半規管を狂わせる。

 Tr.3"Song Of The Moldau"、Tr.7"The Sea Spread Wide"といったロシアン・フォークソングをカヴァーするVidyaykina嬢の豊潤で魅力的な歌声、不穏な空気をぶち撒けながら強烈なフィードバックにまみれていく、東欧のGY!BE的なTr.2"Strange"、そしてエリック・サティのグノシエンヌ第3番をアレンジした終曲まで、相当に特異、かつ刺激的な楽曲が並ぶ。

 その特異なエッセンスがことさら強調された前作は、はっきり言ってトータルで聴くにはアクが強すぎた。メロディや展開といった基盤部にしっかりと重きが置かれた今作は、良い意味で「奇態」と銘打てる刺激的な良盤だと思う。万人に薦めることのできる作品ではないけれど、気になった人は一度聴いてみてください。

 ちなみに余談ですが、彼々の音は"Brechtian Cabaret Punk"と形容されてるとか。ドイツのマルクス主義詩人劇作家ブレヒトに影響を受けた、シニカルでストレンジ、時に狂気な戯曲的音世界から来てるそうなんですが、こんな音までジャンル分けされてることが、ある意味驚愕。笑

http://www.barbez.com/music.html