ARCTIC MONKEYS/Whatever People Say I Am, That's Not What I Am

★★★★☆

音楽シーンに一大狂騒を巻き起こしている英国男子4人組、The Arctic Monkeysのデビューアルバム。プロデューサーはジム・アビス、リリースは英DOMINOより。

まず一言。素晴らしい!ほとんど完璧。かつ驚くべきは、この上なくストーレートなロックチューンでありながら、何度聴いても「○○っぽい」なんて陳腐な形容が脳裏に浮かばぬこの新鮮さ。絶妙な憂いを含んだ英国気質の甘いメロディーが、一方で米国的な土臭さを感じさせるバンドアンサンブルを伴って溢れ出す。

デモ版から一気に化けたのが、Tr.6"Still Take You"
茶目っ気たっぷりの悪ガキっぽいイントロのリフ
つんのめり、モンドリ打って驀進するドラミング
甘いメロのヴォーカルは有無を言わさず畳みかけ
酔狂なギターフレーズによる渋い間隙を挟み込み
そして一気に爆ぜる怒涛の展開!

瀑布となって覆い被さるギターに乗り、全ての音が畳みかけるように全力でぶつかって来るその昂揚感たるやもう最高。アルバム中盤のミドルテンポの楽曲群では、そのメロディメーカーっぷりを如何なく見せつけ、ウォール・オブ・ギターとビタースウィートな旋律が双璧をなして打ち寄せる"A Certain Romance"で豪快に幕を引く。

不思議と「この音が世界を変える」なんて大仰な感覚はしない。そんなフレーズが馬鹿馬鹿しく感じられるほどに、純粋な輝きを放つ楽曲に圧倒・昂揚させられる。あまりにも有名過ぎて、、、なんて理由だけで敬遠してる人、その気持ちも分からないではないけれど、是が非でも一度は聴いてもらいたい、そんな快作。

Favourite Worst Nightmare

★★★★

15ヶ月という短期スパンで届けられた2ndアルバム。昨年ツアー中に離脱したベーシスト/Andy Nicholsonに代わり、バンドにはNick O'Malleyが加入。プロデューサーにはJames Ford(最近ではKlaxons,Mystery Jetsなどを手掛けている)、Mike Crosseyの二人を迎えている。

鈍い煌めきを増したメタリックなギターテクスチャ、変拍子や小休止をふんだんに盛り込んだトリッキーな展開。"歌う"というより"性急に吐き出す"ようなAlex Turnerのヴォーカルと共に爆ぜる3分間の小激情、"Brianstorm"にて幕開け。彼ら特有の、邪気たっぷりのメロディ/リフが跳ね、コブシの効いたギター・ソロが踊る中盤へ、終にはラップをかますヴォーカルが〆るこれまた3分弱のTr.2"Teddy Picker"へと続く。

構成展開は勿論のこと、エフェクト使いや音処理の一つ一つから、バンドが前回とは異なる新たな試みをしようとしていることが分かる。この手の試行錯誤の渦中で自滅する若手バンドが最近異常に多いが、コイツラのソングライティング能力はやはり別格なようで、磐石たる音の土台はこうした小細工を弄しても全く揺るがず動じずに、それでいて非常にパンチの効いた楽曲を作り上げることに成功している、と思う。

が、その"パンチが効いた"ってところが実はクセモノ。効きすぎているのだ。全12曲で39分というプレイタイムからも判るように、種々のフックを散りばめた各ナンバーは、そのほとんどが3分弱。随所で"散発"する小規模な昂揚のインパクトは、作品トータルで見ると(終盤なんて特に)なんとも分が悪い。

山椒は小粒で〜とかいう諺もあるにはあるが、やはり小粒は小粒モノ。メインたるディッシュが無いと始まらない。思えば前作では、幕開けと同時に鼻っ柱へ強烈な先制パンチをかます"View From The Afternoon"、アルバムの前後半を鮮やかに切り分ける"Red Light"なんかがこの「絶妙なスパイス」の役目を果していたが、それは無骨なリフが/リズムが/メロディが、土煙巻き上げ襲来し、比類なきグルーヴの渾然と化して完膚無きまでにこちらを叩きのめす、そんな"破格の勢い"を感じさせるメインディッシュ(Dancefloor、San Francisco、Still Take You Home、Sun Goes Down、From Ritz)がそれこそ山と積まれていたからこそその存在が活きていたわけで、如何に美味なスパイスも、そればっかり喰らっておればやはりどうしても飽きる、、、音の鳴りっぷりのメリハリを利かすため意識的にやっているのか不明だが、縦の動きが極端に乏しくなったベースラインの平坦さも、個人的にはかなり物足りない。大味な楽曲が、もう1つ2つ入っていたら面白かったかも、と思わず感じてしまった。

ただ別にフォローするわけではないが、各楽曲からバンドの意識がハッキリと感じ取れ、かつこれだけの良曲をズラリ並べている今作は、新人バンドの2ndとしては十分に合格点(ってお前何様だ!?と言われそうだが。)唯一『なんとなく爪弾いていたら出来てしまった』ようなの薄っぺらな展開(こんなのをプログレッシヴだ!サイケだ!と叫び持ち上げるのはどうかと思う)の"505"をラストトラックに持ってきてしまっている点以外は、全体の感じとしても全く悪くない(だからオマエは!!!という激怒の声は無視)

しかし1年後には早くも新譜をリリースしていそうな、止まることを知らぬが如きバンドの、そしてAlex Turnerの才能の"勢い"は全く衰えていないように感じられるのが、何とも嬉しい。私の中では、これからも今後が非常に楽しみなバンドです。

Humbug

★★★★

2年4ヶ月ぶりとなる3rdアルバム。当初「QUEENS OF THE STONE AGEのJosh Hommeがプロデュースを担当!」と聞いた際にゃ「ワォ!そしたらきな臭いロックで驀進するのネ!」と少なからず興奮したもんだが、"荒野のロケンロー"はむしろ「寂寞」とも言えそうな渋〜い世界を展開している。

全10曲中7曲をJoshが担当し、残るプロデュースは前作に引き続きJames Fordが受け持っている。そのJoshが手掛ける"My Propeller"で開幕するんだが、今作が向かう方角はこの一曲からして明らか。空模様に例えるなら曇天。気分でいうなら憂鬱か。薄からぬフラストレーションを内々に、垂れ込める紫煙のように展開するねっとり「スロウ」な曲調がまずもって印象的。ボヤけた起伏で、逆にウマみを増したリズムの「跳ね」を際立たせる"Crying Lightning"、激センチメンタルな「バラード」調の"Secret Door"をはじめ、その音や展開へ効かされる小技は前作以上。ただし初聴時の「また随分と地味渋な、、、」という印象はやっぱり正直なところで、1stのアレがあってこそ聴けるこの3rdだよなーとも思う。鬱屈の中にセンチメンタルな蒼さを感じさせるアレックス・ターナーの声/メロディには相変わらず強い魅力があるけれど、今んとこはまだ、デビュー盤での興奮を上書きするような「衝撃的な」ブツには至ってないでごんす。

Cornerstone

★★★★

09年発新作EP。やっぱぁコイツらただもんじゃぁねぇや!と思わず唸ったビックリするほどの好内容。今年リリースされた"Humbug"が不完全燃焼だったアナタにこそ薦めたいこの一枚。そのHumbugからのシングルカットが"Cornerstone"なんだけども、その後ろに収録された新曲3つがアタマを完全に喰っちゃってるの。

まずはTr.2の"Catapult"
運指練習すら思わせるイヤミなほどに抑え込まれたベースのループが、要所で煙り立つ哀愁のギター・ワークを際立てる。続く"Sketchead"がこれまた憎ったらしいまでに無愛想なナンバーで、愛想の欠片もなく突っ走るリズム隊は確かにHumbugの延長線に在るんだが、ぶっきらぼうなメロディが随所で仕掛けるフックのキレは、明らかにコレが上。そこへ被さり弾けるAlex Turnerの声がまた素晴らしく、緩急の波を乗りこなし、波頭を蹴散らかすよなラッシュを各所で展開。けだるいグルーヴから警報のように音が迸り走り出す"Fright Lined Dining Room"に至っては、若さゆえの鬱屈と発散されるキナくささ、キワドイ感覚の描出をやってこますという、このバンドの持ち味が存分に発揮されている。こんなのをポポイとB面に放り込まれるとなると、先のアルバムの地味渋さも翻って再評価したくなる、そんな快作EPでありました。

Suck It And See

★★★★

1年10ヶ月ぶりとなる4thアルバム。プロデューサーは前作に引き続きJames Ford、レーベルもこれまでと同じくDOMINOから。

地味渋ながら凝った音作りの前作に対し、ライブテイクが中心だという今作。スルメ盤、というフレーズは好みでないが、聴くほどに味が出るって意味では前作に同じ。全般に大きな路線変更やキワ立ったイロづけはされておらず、ある意味、先般リリースされたAlex Turnerのソロ作で感じた「この声とメロディセンスはウマすぎる!」という感覚を、バンドという形態で補強したような一枚。

あぁっ!我ながらまわりくどい言い方。要は「素朴だけど、凄く良い素材が詰まったアルバムだ」ってこと。サーフ・ポップなストリングスが渚のセンチな開放感を描く"The Hellcat Spangled Shalalala"や、悪ガキっぽいリズムが飛び跳ねリードするアルバム中盤部の展開も十分キャッチーだけれども、輪をかけて良いのがそれ以降。Tr.8"Reckless Serenade"を皮切りに次々と紡がれる珠玉のメロディ・ラインには、もはや抵抗不能な魅力が宿る。サラリとした旋律で味つけしたトラックは、しかしどれも非凡なメロディセンスと韻律のウマさに満ちている。

あえて苦言を呈するならば、全体にやや大人しすぎるキライがあるとこかしらん。仮にこれが無名の新人バンドのデビュー盤だったなら、あまり聴き込むことなくラックの奥へ、というパターンもありうるかも。若い今しか出せないフィーリングもあるだろうし、もっとジャカスカと突っ走って欲しいなーとも思うのだ。

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